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「ごめん!好きな人がいるんだ」
私はずっと片想いしていた人に振られた。
お決まりのセリフで。
夜景の見える橋の上で、虹色に移り変わっていく観覧車を見ながら「綺麗だね」なんて、今日はそんな事思う余裕もなかったのに。
彼も楽しそうにしてるから、大丈夫だなんて思っていたのに。
好きな子がいるなら、デート断れ。お前の思わせぶりな態度で、どれだけ空高く舞い上った事か。そして今は、地下の深く深く奥深く、そのまた下のどん底まで沈んでしまった。
今までの時間を返してほしい。
あなたに費やした時間。
あなたに恋焦がれた時間。
遠ざかっていく背中。その目線はその好きな人に向かっているのだろうか。それとも好きな人なんか居ないけど、私の事をそういう対象で見れなかったのか。
どちらにしても、振られた。
行き場を失ったこの恋心、このやるせない想いは何処へ行けばいいの?
すぐにこの夜空の高く、高くまで飛ばせたならどんなに楽だろう。
私は涙を潤ませながら、静まり返った電車へ乗り込み腰を下ろした。
電車の心地よい揺れが、私の濡れたブラインドをゆっくりと下ろしていく。
私は彼の優しい笑顔を浮かべながら、完全にこの世界からシャットアウトした。
「お嬢ちゃん!お嬢ちゃん!」
ん?何?
のそり、と瞼を開けると目の前には、薄ピンク色のワンピースを着たおじさんが立っていた。右手には赤いハートが付いたステッキ。左手は吊り革にぎゅっと掴まっている。
え?痴漢されるのかな?
「おじさん、誰ですか?!」
「わしは恋愛天使だよ」
「恋愛、天使?」
確かに背中には禿げかけてる純白の羽が付いている。っていうか頭も。
「これ、あげる」
恋愛天使は私に小さな紙切れを渡した。
それはピンク色の切符だった。
「それは次の恋愛の片道切符だよ。裏に次の恋のはじまりについて書いてある。その恋の相手が君の本物の相手なら、その人が同じ色の切符を持っているはずだよ。だから、その期間までに恋を成就させる様、自分を磨くんだ!」
「片道切符?恋の相手?」
意味が分からない。頭には疑問符が浮かび上がる。
「頭、悪いな君!」
カチン!
私の拳がおじさんの頭部に飛ぼうとした時、おじさんは少し舞い上った。
「とりあえず、その切符を持って裏に記載してある日にその場所に行くんだ。そこに次の恋の相手がいる。頑張るんだぞ!」
おじさんはそう言うと、ステッキをくるりと回しその場からパッと消え去った。
おじさんの残り香の匂いに、むせ返りそうになりながらその切符を見つめた。
〝恋の片道切符〟と書いてある。
裏には
〝◯月◯日 8時25分発の◯◯線に乗れ。
そこに恋の相手がいる。
目印は、左耳の穴の奥のホクロ〟
えぇ?!1か月後?
私は意味が分からないまま、電車を降りて家路を急いだ。
恋愛天使のワンピースから伸びた足のすね毛が、衝撃的すぎて脳裏から離れなかった。
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