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涸れることのない涙
男性が大きな声で叫んでいた。それに対して謝ろうとするも、声に圧倒されたのか、それとも今までの気持ちにとうとう押し潰されてしまったのか、上手く声が出せない。
男性は私をじっと見て、手を差し伸べる。そして、こう言った。
「なにがあったのかは知らないが、早まっちゃ駄目だ。話なら俺が聞くから」
「……話すことなんて、ない」
やっと声が出せた。私がしようとしていたことでこの男性に迷惑掛かったのは少しだけ悪いと思った。でも、話して何になるというんだろう。
ただ私は……。
「分かった。この近くに喫茶店があるのは知ってるだろう? なにがあったか聞きたい。嫌だったら、家まで送る」
男性は私を見つめていた。なぜ、見知らぬ私にそこまでしてくれるのだろうと思った。私は男性をじっと見つめ返した。
「あ、なにもしない。ただ飛び降ろうとした人がいたら止めたくなってしまって。しかも女性だと尚更だ。別にやましい気持ちは、」
「分かりました。話を聞いてくれますか?」
まだ、この男性を信用しきっているわけじゃない。でも、今までの気持ちを……。
「大丈夫かい? ほら、」
私の目から自然と涙が零れていた。それを見て男性はハンカチを渡し、手を差し伸べた。私は手を掴むことが出来なかった。涙が止まらなかったから。
十分程、漸く心を落ち着かせることが出来た。ゆっくりと立ち上がると、男性とともに喫茶店に向かった。
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