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きっかけ
近くの喫茶店にて私たちは着いた。来てしまって今更だけれど、見ず知らずの人にと思うと、なにがあったかを話すのが言いづらくなってしまった。
私は男性が話を切り出すのを待った。多分、自分からは話せない。だから、私は待つことに決めた。
そして、待つこと五分。男性も話し始めないまま時間は過ぎていた。どうしてだろう。
私から言えば、気持ちは楽になるかもしれない。けど、男性には無関係な話。知ってどうなるんだろうと気持ちと私の何が分かるんだろうと気持ちでいっぱいだった。
「あの、私帰ります」
たった一言残してその場から逃げようと思った。それなのに、私が言葉を発して腰を上げた瞬間、男性は私の腕を掴んだ。
「また、あの場所に行こうとしてるんじゃないかい?」
男性は私をじっと見つめていた。それも真剣な顔で。なぜ止めようとするの?
「君が話すの待ってるから。何時間掛かったって待つ」
私は嬉しかった。嬉しくて目から涙が零れた。何度目の涙だろう。
「実は、私には大切な人がいました」
そう切り出した後、私は伝えるように言葉を続けた。男性は時々相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた。
それが、私が前に進めるきっかけだった。
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