第一話 憧憬と恋は砕かれた――回めぐる

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「待ってよ」 甘いアニメ声が鋭く空気を裂いた。全員の視線が一転に集まる。注目を一身に受けたのは、私の胸辺りほどの背丈しかない小学生だった。背負ったランドセルの中からはリコーダーが覗いている。可愛らしい姿であるにも関わらず物怖じせずにスピーカーを睨みあげているせいか、実際よりも大きく見えた。 彼女は腕を組んでスピーカーを凝視した。 「あたし、そんなゲームに参加するなんて言ってない。というか、さっさと帰してほしいんだけど」 彼女の言葉に、私も我に返った。そうだ。このシチュエーションにすっかり流されてしまっていたが、この子の言う通り、この奇妙なゲームに付き合う義理は全くないのである。 私も同調して声を上げようとしたその時だった。ザァァァァァと耳を苛むノイズがスピーカーから響き渡り、不気味な声が問いかけた。 「い い ん で ス カ ?」 背筋に寒気が走った。得も言えぬ底気味の悪さがまとわりついてくる声だった。 「ゲームを降りても構いませんが、その場合は代償を支払っていただきます」 談話室に緊張感が走る。しかし、それでも彼女は果敢に突っかかった。 「はあ? 何それ、意味わかんないんですけど」 「ゲーム放棄の代償は、皆さんを構成する全ての情報です。みなさんの本名、容姿、年齢、性別、家族構成、住所、電話番号、その他全ての個人情報、そしてみなさんがひた隠しにしている『秘密』も、全てを全世界に公開させていただきます」 全世界? そんな大それた、馬鹿げたことを! そう笑い飛ばしたかったけれど、気付いてしまった。この館に迷い込んできてからずっと、奇妙な視線が全身をちくちくと刺しているということに。 天井を仰ぎ見る。黒々とした一つ目のレンズが、じっとこちらを監視していた。あの黒目の向こう側には無数の目玉がうじゃうじゃと潜んでいて、それらがじっと私たちを見ているような、そんな妄想が浮かんだ。 ランドセルを背負った少女は、その脅し文句にわかりやすく動揺していた。先程までの威勢は萎んでしまっている。というより、その場のほとんどの人間が怖気付いた様子だった。平然としているのは、終始にやにやと笑っている皇もねと、「どんなゲームなんだろうね!」とトンチンカンな期待をしているしゃけちゃんだけだった。 「それでは、ルール説明を始めます」 無機質な声は勝ち誇った響きを伴っているような気がして心底癪に触ったが、反抗する術はない。小さく唇を噛んだ。
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