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chapter 5
容赦なく照り付けていた太陽はもう随分傾き、明日以降の晴天を約束するかのような残照を甲子園のグラウンドに注いでいる。
その中心に立ち、山崎からの返球を受けるのは『成瀬北斗』。
俺が唯一憧れ続け、目標にしてきた、過去のピッチャーだ。
誰も想像すらしなかった投手交代。もちろん、当の本人さえ。
規定の投球練習を固唾を呑んで見守る俺達の目の前で、何球目かが大きく逸れ、レフトスタンドから悲鳴が上がる。
数年振りにバッテリーを組む山崎が長身を活かしてしっかりキャッチした。
『どうやら彼は、ピッチャーの経験があるみたいですね』
『……そうですか?』
とんでもない暴投の後でそんな事を言われても、信じられないに違いない。
胡散臭そうなアナウンサーの口調に、ゲストの含み笑いが混じった。
『癖のない綺麗な投球フォームです。無駄な力が入ってないのもいいですね。それに投げた後の身体の状態や返球の受け方も、とても初めてマウンドに立つとは思えません』
『ああ、それは私も感じました。安定した投げ方だと思いますが……』
『そうでしょう? 多分下半身が非常に安定しているんです。何というか、教科書に載せたいようなピッチングです。こんなに自然な投球フォームで投げるピッチャー、そうはいませんよ』
うわ、たった数球の練習でいきなり褒められてる。
しかもどっかの監督をしてるらしいゲストのおっさんに。
ワンちゃんのプレーを見た後じゃ、その才能を高く評価するのは当然かもしれないけど、実は彼が本領を発揮するのは投げた後のマウンド捌きで、だ。
四年のブランクはあっても、去年の十月に野球部に復帰してからはほとんど毎日硬球に触っていただろうし、人一倍努力してた。
その事は本人じゃなく、彼の友人兼、同居人でもある吉野に教えられた。
手の平にできたマメが何度もつぶれ、皮がめくれるのも構わず練習に打ち込んでたって。
事実、義純を相手に投げてた時も最初こそ安定してなかったものの、徐々にそのコントロールが冴えていった。
その一番の要因がゲストのおっさんの言う『下半身の安定』にあるなら、それはワンちゃんのやってたスイミングスクールのバイトに関係してる気がする。
多分、インストラクターをした後にでも自主トレか何かしてたんだ。
大暴投をキャッチした山崎がマスクを外し、何か一言告げて投げ返す。
難なく受け取ったワンちゃんが、ついでに小さく舌を出して見せた。
山崎への嫌がらせだろうけど、それを見た今井副キャプテンがクッと笑う。
「成瀬の奴、カメラ全然意識してないな」
「そんなモンにまで気が回るか。あいつは今、キャッチャーミットしか目に入っちゃいねえよ」
そうかも知れない。けど、それでいいとも思える。
あんなに動揺してたワンちゃんが、とにもかくにも立ち上がって投げ始めた。
それに、ロージンバッグの存在もちゃんと意識してる。
大丈夫、まるっきり忘れてしまってる、なんて事はない。
後はもう、義純を相手に投げた球を山崎のミットに投げるだけ、それだけでいい。
そう自分に言い聞かせ、胸の動悸を宥めつつ見守る画面の向こうでは、振り返り、遥か遠くの電光掲示板に目を遣って深々とため息を零したワンちゃんが、視線を自分の元いたポジションに巡らせ、小さく頭を振った。
規定の投球、最後の一球を山崎のミットめがけて投げる。
その球は、それまでの不安定なボールとは明らかに違っていた。
プレー再開の主審の合図と共に、自分を落ち着かせる為か、甲子園の空をゆっくりと仰ぎ見て、深呼吸し、その眼を山崎に向ける。
五年ぶりに目にする、マウンド上のワンちゃんの、甲子園での初投球を見守る俺達の眼前で、いきなり山崎のサインに首を振った。
『おおっと!? 成瀬君、山崎君のサインに首を振りました。これは…演技でしょうか?』
『さあー、彼の行動は今一計りかねますねぇ。しかし、さっきの動揺を思えばそんな余裕はないと思います』
『ですがサインを拒否する事自体、この場面では有り得ないでしょう?』
『まぁそうなんですが。全く意味のない事をするとも思えないんですよね』
『……取りあえず、一球目を見守る事にしましょう』
「やっぱただモンじゃねえな、あいつ」
「そりゃそうだろ。県大会でも結城以上にチームを引っ張ってた奴だぜ」
両隣の先輩の話を聞きながら、山崎のサインを拒否したワンちゃんの心の内を探る。
1アウト満塁で相手の一番は四打数二安打。
ヒッティングとスクイズの確率は五分五分だろう。
ただ、相手もワンちゃんの情報は皆無なはずだから、一球目は様子を見る可能性が高い。
その投球でヒッティングするかスクイズするか見極めるつもりじゃないだろうか。
制球が悪ければ四球を待つってのも、明峰ベンチならあるかもしれない。
労せず追加点が入るなら、それが一番楽だろう。
なんて事を敵が思ってくれてたら、西城には願ってもないチャンスだ。
ワンちゃんに限って、それこそ無意味なフォアボールは絶対ありえない。
彼のコントロールのよさはこの俺が保証してやる。
山崎がミットを鳴らし、真ん中に構えた。
ここはワンちゃんに任せる事にしたようだ。
マウンドに立つワンちゃんの一挙手、一投足をカメラが克明に映す。
小さく頷いてセットポジションで投球モーションに入った彼が、山崎のミットめがけて腕をしならせた。
低めにビシッと決まったボールを、山崎がミットを僅かに動かして悠々受け止める。
今日のワンちゃんの第一打席、彼が見送った低めのストライクゾーン!
さすが、だ。
審判の判定は当然ストライク。
レフトスタンドの、「おお~っ!」っていうどよめきが笑えるけど、その心境は俺にもよ~くわかる。
『初球、低め一杯に決まりストライクを先行させたマウンド上の成瀬君、見事なボールでした』
『ええ、ぎりぎりでしたが、高目に浮くよりいいですよ』
当のワンちゃんは…と見ると、やっぱカメラも彼を追ってるから様子もすぐわかる。
初球、ストライクが取れたというのににこりともせず、即二球目の投球に入った。
その早いテンポについていきそびれ、相手の出したバットに「あっ!」と声が出た。
スクイズか! 思うのと同時に相手の思惑を察する。
ワンちゃんの心理を利用して、揺さぶりをかけてきたんだ、エラーを誘う為に。
ワンちゃんは!? ちゃんとバント処理できるのか?
そのバッターには対応してる。ヒッティングはないと踏みマウンドを下りる。
それに気付いたバッターはプッシュか? それとも転がすか、どっちだ!?
選択を迫られた目の前で、ワンちゃんの素早い行動に焦ったのか、勢いは殺せたものの僅かに浮いたボールがホームの前に飛んだ。
それぞれの走者にストップが掛かる。ゲッツーの可能性だ。
俊足の一番バッターだけが自分も生きる可能性に賭けて一塁に全力疾走する。
誰よりも早く落下地点に向かったワンちゃんが、ダイレクトには一歩及ばなかったけど弾んで浮き上がる球をパシッと右手で掴み、振り向きざま二塁に投げた!?
「ウッソォ!? またかよ!」
「そっちじゃねえって!」
喚きまくる三年を尻目にセカンドに入った松谷のグラブに計ったようにボールが収まる。
二塁審のアウトコールより早く、受けた松谷が軽やかなステップで一塁へ送球した。
際どいタイミングにはもう慣れた。
それよか二塁を中継したにも関らず、一塁で打者をアウトにしてしまうパス回しに、寒気すら感じる。
ワンちゃんの、打球への尋常じゃない対応がそれを可能にしてるのは言うまでもないけど、今のプレーも山崎がホームを飛び出してなければワンちゃんはホームに投げてたはずで、それを山崎がファーストへ送っていただろう。
どんなシーンでも同じ状況なんかない。
その場面を完璧に把握し、バッターの打球に備え、あらゆる可能性を視野に入れて次のプレーを選択する。
ワンちゃんの守備を補う為の山崎の判断と、その動きを察し、セカンドに投げてダブルプレーを狙ったワンちゃん、それを裏で支える松谷のカバーに、西城の真の怖さがある。
さっきの状況ならまだ1アウト。
ヒットでもバントでも、ダブルプレーにならない限り追加点は入る。
それを見越し、打球の転がり方を読んでの守備だった。
そんでそのチャンスをものにしたわけだけど、その根底には確かにランナー=明峰の、ワンちゃんへの恐れがあった。
他の奴がピッチャーだったら、今のあの球をダイレクトでキャッチするかも、なんて思うわけない。
ピッチャーがワンちゃんだった事が、自分達の足かせになったんだ。
このスクイズ作戦自体、いきなり投手にされた選手の動揺に付け込んだものだったのに、結果はその作戦に足を取られたようなもんだ。
相手の隙を突いてるのは明峰だけじゃなかった。
ショートでもマウンドでもワンちゃんの守備の基本は変わらない。
バッターがファーストに行くまでに、他のランナーをアウトにできるかどうか。
冷静に見極め、ゲッツー取れたらラッキー、くらいの気持ちで、どっちかって言うとスリルを味わうような感じでパスを回してる。当然、楽しみながら。
それが怖い。けど、やっぱ嬉しい。
『……何と言いますか、非常に読みづらい試合展開になってきました』
スクイズプレーに始まって、ワンちゃんの捕球、松谷のカバー、門倉の幻のホームイン等々、次々まくし立ててたアナウンサーが痰を切るように咳をして自分の仕事を全うする。
『やりがいのある、の間違いじゃないですか?』
『苛めないで下さい。選手の実況だけで一杯一杯なんですから』
確かに、言えてるかも。俺も見てるだけで精一杯だ。
「あいつの守りにプレッシャーはねえのか?」
「さあねぇ。けど、今のは敵の読みが甘かったんじゃね?」
キャプテンのぼやきに副キャプテンが反論する。
「いいや、あいつが変なんだ」
たった二球で敵をダブルプレーに仕留めベンチに引き上げるワンちゃんを、あごでしゃくり決め付ける浜名キャプテンだけど、ヘンかどうかは別にして、まだ1アウトだった事を思えばスクイズで相手のミスを誘うのは当然の選択だと俺も思う。
それなのに絶好のチャンスに一点も入れられず、しょっぱなからこれじゃ、やっぱ普通じゃないと言いたくもなる。
最大の危機を見事に切り抜けたワンちゃん達西城の選手を、レフトスタンドのみんなが大きな拍手で迎える。
それにも表情を変えないワンちゃんが掲示板を振り返り、慌てたようにグラブを外した。
そうだった、七回裏はワンちゃんの打順からだった。
投手交代で驚きすぎて、そんな事もぶっ飛んでしまってた。
掲示板が映り、4番のところに点るランプを確認して、バッターボックスの横に立つワンちゃんに画面が切り替わる。
門倉との二度目の対決。
さっきは三塁線へのボテボテのゴロで、ダブルプレーだった。
今度はどうか。
その先を考えるより早く、ワンちゃんのバットが門倉の球を真芯に捉えた。
「ウソッ! 初球から!?」
またまた驚いた。ワンちゃんは初球あんまり手を出さない。
じっくり見て、その球種、組み立てを読んで打つタイプだと勝手に思い込んでた。
ライナーがサードベースぎりぎりに猛スピードで飛んでいく。
三塁塁審のフェアのジェスチャーを目視したワンちゃんが、ためらいもなく一塁を蹴った。
レフトの選手が追いつき、中継に入ったショートに投げる。
余裕で二塁ベースを踏んだワンちゃんが、塁審にタイムを要請し保護カバーを外した。
……なんか、マウンドに上がってから人格が変わってないか?
色んな面が見えて、俺的にはワクワクもするけど。
異様にドキドキしながら見守る俺は、いつの間にか悲壮感が薄れ、門倉以上にカメラを占領するワンちゃんを一緒になって追い続けていた。
『投打に大活躍です、西城の四番、成瀬君。門倉君の変化球を見事に読んで、初めてのジャストミート。二塁打を放ちました』
『ナイスバッティングです。ボールに逆らわずシャープに振り切りましたよ』
前回の久住と同様、今度はワンちゃんがセカンドからリードを取り、門倉にプレッシャーをかける。
セカンドに牽制する振りをしてベースにつかせた門倉が、セットポジションで様子を窺いつつ二番手の山崎に意識を向けた。
再びベースから離れ二、三歩距離を取るワンちゃん。
それは無視する事に決め、門倉の足が上がる。
刹那、絶妙のタイミングー投手にとったら一番嫌な間合いで、ワンちゃんがスタートを切った!
『走ったッ! 成瀬君、門倉君の裏をかき、初球盗塁を試みますッ!』
不意を衝かれる、とはこんな感じだろうか?
優勝候補、明峰の正捕手が成す術もなくホームの前でボールを持ったまま立ち尽くす。
盗塁を察したものの投げても間に合わないと判断し、無駄なエラーを増やさないよう三塁には投げなかった。
ボックスでしゃがんでいた山崎が、ゆっくり立ち上がる。
きょろきょろとボールの行方を確認するワンちゃんに、三塁コーチャーが声を掛けた。
拳を突き出され、それに応えたワンちゃんが、レフトスタンドの盛り上がりにも気付かない様子で振り向いてバックボードを確認する。
ノーアウトで三塁まで行ったワンちゃんの目は、ホームベースしか見えてない。
その視線の先では、山崎が声を張り上げ門倉を見据える。
打つ気がみなぎっているのは画面越しにも伝わるけど、あいつは大振りが多い。
それがわかってるから内野はあまり後退してない。
ぎりぎりのところに踏みとどまりバックホーム体勢、もちろんスクイズを警戒してのものだ。
当たればホームラン。ただし門倉が投手ならその確率は極めて低い。
それよか当たり損ないのボテボテがヒットになる方を阻止する為の守備位置だ。
二球目、山なりのカーブを、当てる事の苦手な山崎が、予想通り思い切りフルスイングした。
ビュッと空を切る見事な空振り。あれがあるから俺達、投手は楽になる。
けど、今はそんな事でホッとしてる場合じゃない!
仮にもクリーンナップだろうがッ! 目ん玉ひん剥いてしっかり当てやがれッ!
届くはずのない叱咤激励は空しく、門倉にいいように翻弄されて最後はストレートで三振を喫した。
……あのバカ。
今度からあいつのクリーンナップはない。俺が監督なら絶ッッ対、下位打線に締め出してやる。
勝手に決め付けて次のバッターに望みを託す。
アウトカウントが増えただけでランナーはそのまま、三年の高木が四度目の打席に立った。
今度は間違いなくスクイズする。
当然明峰にも読まれてるはずだけど、山崎の打ち気に感化されたのか守備が微妙に中途半端なものになっていた。
恐らく自分達も気付いてない。
いつもならもっと大胆に徹底して前進守備を取るはずの野手が、何一つ枠にはまらない西城のプレーに珍しく惑わされていた。
その最たる人物でもあるワンちゃんが三塁ベースに立つ。
それだけで野手の心がざわつく。
俺にはその気持ちが手に取るようにわかる。
もちろん、今の門倉の心境も。
集中力を最大限に高めたワンちゃんが、一瞬アップで画面に映った。
それだけで十分。
頬を伝う汗にも、本塁を狙う冴えた眼差しにも、こんなにも強く惹き付けられる。
「クッソォ、やっぱマジかっこいいよな、こいつ」
悔しそうな今井副キャプテンの呟きは、門倉の投球と同時にかき消された。
大きく逸らされたボールに、目一杯身体を使ってどうにかバットに当てた!
「っし! よく当てたっ!」
ファースト方向に転がるボールをマウンドを下りた門倉が追う。
コンマ数秒の差が明暗を分ける。
ベース前でがっちりブロックし、ミットを構え喚くキャッチャー。
それを巧みにかわし、足元の隙間を狙って頭から突っ込むワンちゃん。
大きく映る画面の中が、たった40㎝角ほどの狭い空間に挑む選手で一杯になる。
遮られた視界の先、突き出されたミットにボールが吸い込まれ、受けたキャッチャーが振り向きざま、滑り込んだワンちゃんに被さってそれを叩き付けた。
勢いで流されかけた身体が横滑りに止まり、土埃がおきる。
けんか腰にも見える荒っぽい防御だけど、ホームを死守するキャッチャーの心理は、隣の奴が誰よりも知ってる。
その荒々しいプレーが俺達ー投手を助ける為のモノだって事も……十分わかってる。
けど、この腹立たしさは何だ?
何も言えず見据える視線の先で、ワンちゃんに被さるようにブロックしていたキャッチャーがミットを高く掲げ審判にアウトのアピールをした。
アウトか、セーフか!?
息詰まる一瞬。
大歓声の中、主審の出したジャッジは意外にもセーフ、だった。
『セーフ、セーフです。逆転された直後の七回裏、西城高校、高木君のスクイズでその差を一点に戻します』
『それにしても高木君はよくあの球を当てましたねえ。無理かと思いましたが』
『プロフィールには悪球打ちが彼の得意技だと書いてありますが』
『ハハ、なるほど。それなら納得します。失敗すればさっきの明峰の二の舞になってましたからね』
『それにしても際どいタイミングでした。目視ではアウトかと思われましたが、――VTRが出ます。もう一度スローで確認してみましょう』
アナウンサーの声と同時に画面が切り替わる。
『成瀬君がキャッチャー千葉君の腰が浮いた隙に、足元からホームに手を伸ばします。門倉君からのボールを受けた千葉君が滑り込んできた身体にタッチしますが――』
『あっ、成瀬君の左手が先にベースについてますね』
『確かに。角にしっかり指をかけて身体を止めました。ですがベースから離れていたらアウトを取られていたかも知れません』
『そうですね、非常に激しい攻防でした』
ボールをキャッチするのとほぼ同時に、ワンちゃんの左手がベースをタッチしていた。
その後で千葉ってキャッチャーがワンちゃんにミットを叩きつけたんだ。
審判の誤審かと思ったけどさすがにプロだ。あんな一瞬のプレーをよく見極められる。
『千葉君のブロックも完璧に見えましたが、僅かな隙を狙いベースタッチした成瀬君を褒めるべきでしょう』
『値千金の追加点ですが――』
VTRから放送席に切り替わった画面では、何か言い掛けたゲストのおっさんがいきなりククッと笑い出した。
『どうかされましたか?』
『いえ、相手の好機はことごとく潰すくせに、自分は針の先ほどのチャンスもしっかりモノにするんだなと思ったら、可笑しいやら頼もしいやら』
咳払い一つで笑いを収めたおっさんが、細めた目を三塁側に向けた。
その先には、ベンチ前で仲間から盛大な歓迎を受けるワンちゃんの姿があるんだろう。
三回以降0行進だった西城が、後半になってようやく得た待望の追加点。
それは今大会ナンバー1投手、門倉からの貴重な一点だ。
ワンちゃんらしい、地味だけど派手な、足を絡めたヒットのない得点。
図らずも、義純の予想通りの展開だった。
一際盛り上がりを見せた西城高校応援団。
ホームでのクロスプレーの間に、高木が余裕で一塁セーフになり、続く柴田にも初ヒットが出て、この機に乗じようと久々にレフトスタンドが賑やかになった。
それが、門倉の闘争心に火を点けた。
身体も徐々に慣れてきて、その上本気になった門倉を相手に、久住も、ワンちゃんの代りにショートに入った奴も三振に倒れ、あっさり後続を断たれた。
一点の追加点止まりになって迎えた八回表。
六対七、点差は僅かに一点。
このイニングからが、ワンちゃんの本当のリリーフだ。
今の彼に、明峰の打線を抑えるピッチングができるんだろうか?
それより何より、マウンドに上がった後にできたショートの穴は、ちゃんとカバーできるんだろうか?
その事が、実は一番気がかりだった。
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