最後だと思ったら、それは始まりだった。

1/1
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
俺たちは同期入社という事もあるが笑いのツボや怒りの沸点等とにかく気が合った。だから自然とよく一緒につるんでいたし悩み事を相談しあったりもしていた。 それが突然お前から「好きだ」と告白され最初は何の冗談だと思った。 だけど俺は、お前は何があってもこんな冗談を言うやつじゃないと知っていたから、お前が俺の事を好きだと言うのなら本当に好きなのだろうと思った。 それが分かっても、俺はどう答えていいのか分からなかった。 ―――怖かったんだ。折角こんなに気が合う友人ができたというのにこの告白を断れば今までのような付き合いはできなくなるだろう。だから俺はのらりくらりと返事を先延ばしにしてしまった。 それでもお前は諦めずに俺に気持ちを伝え続けた。 そんな事が半年も続き、いい加減俺も覚悟を決めないとと思った。 一度だけデートをしてアリかナシか考えさせて欲しいと提案した。 その提案にお前も乗って、動物園がいいと言った。 いい歳をした男同士で動物園は少し、いやかなり恥ずかしくなかなかOKと言わない俺に、「お弁当持ってくから、だからお願いだ。一度しかデートできないなら……一緒に動物園に行きたい」 お前の必死な姿に罪悪感を覚え、了承する事にした。 そして当日、動物園にいる動物たちはどこか気だるい雰囲気でじーっとこちらを見ていた。自分たちが見られている事に居心地の悪さを感じるが、隣りには嬉しそうにはしゃぐお前がいて、まぁいいかと思った。 歩き疲れてさぁ昼めしでも食べるかと木陰に移動すると、いそいそとお前が包みを出した。 包みからは不格好な所々焦げているクマの顔をしたパンが顔を出した。 一目で手作りだと分かるそのパンは、どこかお前に似たクマの顔をしていた。 この動物園デートを受ける条件のように出されたお弁当。 俺はお前が器用な方じゃなくどちらかと言えば不器用だと知っていたから手間がかからないように「何がいい?」という質問に「パン」と答えた。 その辺で買ってくればいいと思ったからだ。 まさか手作りしてくるだなんて思わないじゃないか。 不安気に揺れるお前の瞳。思えば俺に告白して以来お前はずっとそんな瞳で俺の事を見ていた。 俺はクマの顔したパンを大きな口で頬張り、味わうように噛みしめ飲み込んだ。 形だけでなく、この優しい味もお前に似ている…………。 「――――付き合おっか」 自然と口をついて出た言葉だった。 俺がそう言うとお前は涙を零し何度もなんども頷いていた。 お前の柔らかな髪を撫で、パンをお前の口にも放り込む。 お前は涙を流しながら 「少ししょっぱいや……」 って言って笑った。 -終-
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!