2. 拓也とパン屋の元カレ、そして今カレ (元カレside)

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2. 拓也とパン屋の元カレ、そして今カレ (元カレside)

 拓也が今カレを、俺の店に連れてくるなんて。  バツ悪そうな顔で、彼が言い出したんじゃなく、たまたまだって分かった。通りがかりってところだろうか。 「おススメは何です?」  拓也の可愛い今カレはニッコリ聞いてくる。 「卵サンドが出来立てですよ」  俺も客商売の笑顔で答えた。  パン屋は重労働だし利幅も薄い。でも俺はパンが、パンで喜んでくれるお客さんが好きだ。  拓也は修行した店に来たお客さんだった。同年代だし好みの顔だし、何となくお互い好意持ってるのが伝わって付き合った。俺が独立する時も、率先して応援して手伝ってくれた。 「別れて欲しい」  神妙に言われて、他に好きな人ができたんだなって。 「わかった」  しか言えなかった。胸が一杯すぎて。しかも、拓也は別れても俺の店には来てくれた。 「今カレ、お前のパン好きなんだ」  なんてサラッと言うなよ。  二人の幸せを願い、俺は今カレさんの好物をそっと袋に入れた。
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