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「これ、昨日塾で拾ったの。タケミ君のでしょ?」
「あ、ありがとう……って」
俺は、自分の前に立ったナツミの顔をまじまじと見た。隣のクラスまで俺が落としたノートを拾って渡しに来たという彼女の目の下には、明らかにクマができていたからである。
「……大丈夫?顔色なんかすげーけど」
俺が尋ねると、彼女は露骨に肩を跳ねさせて、ちょちょちょっとね!と分かりやすく動揺してみせた。
「ノートの中身が……じゃなくて!昨日はつい、好きなゲームの実況動画見て夜更しして怒られちゃって!寝不足なんだよね、バカだよね私っ!」
「そ、そうなのか」
「もう続きが気になって気になってつい!ついね!と、とにかくそれだけだから。じゃねっ!」
そのままどっぴゅー!と竜巻を起こす勢いで走り去っていく少女。俺はぽかーんとしながら、廊下に一人ノートを持って立ち尽くすしかない。
「……なんだよ」
今の反応。これは明白だ。
「中身見てねーのかよ、バカ」
せっかく、マキに頼んで仕掛け人をやってもらったのに。レンアイノートについてナツミに教えさせた上、彼女がトイレから出てくる直前にわざとノートを廊下に落として行ったのに。とんだ意気地無しがいたもんである。
――まあ。こんな小道具に頼った時点で、俺も人のこと言えねーかぁ。
残念ながら。好きなあの子と並んで歩けるようになるのは――まだ当分、先のことであるらしい。
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