レンアイノート

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レンアイノート

「レンアイノートって知ってる?」 「い?」  塾の眠たくなるような授業が終わり、さあ帰ろうと行った時。唐突にマキちゃんが言い出したので、私はちょっと変な声を出してしまった。 「何突然、藪から棒に。え、マキちゃんそういう占い好きだったっけ?」  私が尋ねると、マキちゃんは薄い胸をえっへん!と張って告げた。 「占いが好きというより、流行ってるモンが好き!そしてみんながそういうものをやって一喜一憂してるのを見て、影でこっそりニヤニヤしてるのも好きー」 「おおう、相変わらずいい性格してるぅ……」 「それがあたしだかんね!でもってこれをナツミに教えたのも当然、ナツミが知って実行してくんないかなーって期待があるからでして」  小学校のクラスメートにして塾も一緒の彼女は、生まれてくる性別を若干間違えたのではと思うほど悪戯好きの少女である。今度は何を思いついてくれたのやら、と思いつつ話を聞いてあげる自分は相当律儀なことと思う。 「流行してるつっても、私聞いたことないよ?レンアイノートなんて」  私が返すと、そりゃそうだよね!と頷くマキちゃん。 「流行してるのは隣のクラスだもん。なんかね、片思いが実るノートってのがあるんだって」 「何その、まるで死神のノートみたいなのは」 「そんな怖いもんじゃないって。ていうか、そのノートを自分で作るの。やり方簡単だよー教えてあげるー」  お節介とはこのことか。彼女は私が訊いてもいないのに、その“片思いが実るレンアイノート”とやらの書き方を教えてきたのだった。目論見は明白である。マキちゃんは私に、そのノートを作って欲しいのだ。何故なら、私が好きな相手はとっくにバレているのだから。 「ナツミちゃんもやってみ?」  マキちゃんはニヤニヤしながら、私の肩をポンッと叩いた。 「応援してるからさー。タケミ君との仲♪」 「ちょっとマキちゃんっ!」 「あっはっは!」  タケミ君。それは、私の去年のクラスメートにして、去年からひっそり片思いをしている相手だ。今年は別のクラスになってしまったが――それでも、思いが途切れたわけではないのである。  私は慌てて周囲を見回した。幸い、タケミ君の姿は近くにはない。彼も塾で同じクラスなのだ、聞こえていたら恥ずかしいなんてものではないのである。 「もう、バカ!マキちゃんのバカー!」  私は涙目になって、ちょっと控えめに叫んだのだった。
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