妻よ

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妻よ

今まで長生きした方だろう。 妻よ、今まで感謝してもしきれない。 君だけを愛していたよ、ずっと── 「本当の貴方を残しませんか?」 医者に一冊の日記を手渡された。 「貴方の心を残す掛け捨て日記。貴方の命が消えた瞬間、日記も消えます。そして懺悔の代わりとなります」 無宗教な私だが、地獄は怖い。私は日記を書き始めた。 妻よ、君だけを愛していた──わけではなかった。一時期は四人の浮気女がいた。いや、本気だった。 筆が止まらない。 給料も嘘だ。他にも家庭を持っていたし年齢も詐称だ。整形や国籍も── 日記は一冊埋まっていた。この量だと、結局地獄行きかもしれない。 医者が私を緊急で呼んだ。もうお迎えか。急いで妻を呼び、医者の所に向かった。 「病巣が消えました。奇跡です」 私はまだ生きる。地獄には行かない。病室に意気揚々と戻ると、妻が掛け捨て日記を開いていた。 生き地獄が始まる。
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