六巻神経痛

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六巻神経痛

「おい!六巻が無いぞ!」 旦那が叫んでいる。思い当たる節はないが、旦那の整理されていない本棚を見たら胸の辺りが激しく痛み出した。心配になって医者に出かけた。 「あー、これは六巻神経痛ですね。旦那さんの本棚に三国志の六巻が無かったでしょ」 確かに本棚から六十巻の内、六巻だけが抜けていたのが気になってしょうがなかった。 「動かないで下さいね」 医者は私の左胸の少し上部に右手を広げて、そのまま私の体の中にめり込ませた。医者は手首まで手を潜らせて、何かを掴むような所作をし一気に手を引き抜いた。医者の手には三国志の六巻が握られていた。 「これで痛みが取れるはずです」 私は医者に礼をいい、自宅へ帰った。そして頼むから本は揃えて片づけて欲しいと旦那に強くお願いした。 そして、翌日。 「おい!五巻が無いぞ!」 その頃五感を失っていた私には、旦那の声も耳に届いていなかった。
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