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その5 狭小キッチンも匠にかかれば
和睦の住む部屋のキッチンは壊滅的に狭い。まず通常サイズのまな板を置くスペースがないし、流し台の中に三角コーナーでも置こうものなら洗う食器を置く場所がほぼない。IHのコンロが一応備え付けてあるが、その上に電気ポットが置いてある為、コンロは活躍の場を奪われている。
「ホケミっち言うたら何ょー想像するか?」
先日友人宅にて誰も死なない軽い事件があったのだが、その一端を担った和睦は、部屋に遊びに来ていた匠に人差し指をぴしっと立てた。
「ホケミ……?」
和睦と匠は友達以上恋人未満、ぬるま湯のような関係を続けて早幾年。匠のほうは和睦を好きだよと言ってくれるが、それ以上のごり押しはしてこない。それを良いことに、だらだらとどっちつかずでいるのは和睦もずるいと感じていた。
一緒にいるのは、居心地が良い。何故なら和睦を尊重してくれるからだ。
「――ホッケの切り身」
「やっぱしそうなるよな。俺が悪いわけではないけ、ほっとした」
「ふふ」
「その笑みはなんか?」
「オレがナーやんの思考を推理したとは考えないの?」
「おお、超能力?」
「推理って言ってんのに」
和睦がホケミをホッケの切り身だと結論づける思考の持ち主であると、匠にはお見通しなのだろうか。和睦は少し眉を寄せたが、特に反論はしなかった。
「しかし、相変わらずの狭小キッチン! オレが普段使いするにはとても我慢が出来ないな」
「俺は料理せんけ、問題ない」
「いやオレがナーやんに腕を揮ってあげられないじゃん。ここ引き払ってうち来ない?」
「んー……そこは匠の腕で。今日もなんか作ってくれるんやろか」
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