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「――なんということでしょう」
匠は大げさに天を仰いで、来訪時に持参した卵とフライパンと密封容器に入れたチキンライスを、狭い狭いキッチンに展開し出した。電気ポットがあるとコンロが使えないため、あえなく一時撤去となった。
「白い卵やね。赤いのとどう違うんか。なんとのう赤の方が美味しそうに見えるやろう」
「単に鶏の種類が違うだけだと思うよ。栄養素的にはそんなに変わらないって聞いたことある」
「匠は詳しいなあ」
「ナーやんちには炊飯器がないから、あらかじめ用意したチキンライスを持参したよ。あとはふわとろ卵で匠特製オムライスをご馳走してあ・げ・る♡」
「何分クッキングか」
和睦は匠の軽快な喋り口に笑い、勝手知ったる他人の狭小キッチンでマグカップに卵を割り入れている様子を脇で見ることにした。
狭い。狭すぎる。
男二人が並ぶ設計ではないこのキッチンで、距離が近すぎるかとも思ったが、あえて匠から離れることはしなかった。
どっちつかずの関係、というのは楽だ。しかしもし、匠が他の誰かと付き合うなどして和睦の元に来なくなってしまったら、それは後悔するだろう。かと言って、今更この関係に変化をもたらすようなきっかけがあるとも思えない。
「ナーやんどうしたの」
「いや、卵見てる」
「ふうん。あ、チキンライスお皿に盛って?」
「……超能力使わんのか」
名残惜しい気持ちを隠し、和睦は貴重な皿を出すとチキンライスを二等分する。その間に匠は持参した菜箸と手首のスナップを使い、ふわとろのオムレツを手際良く作った。皿に盛られたチキンライスに、布団のようにふわりとかけて完成。
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