その1 譲と檸檬

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「え、なに? 『男飯のススメ』って、……レシピ本?」 「いつもゆずに作らせるの悪いから。ハードルの低い料理あるかなと思って、見てたんだよ」 「なんでいきなり?」  尋ねながらレシピ本を手に取り、ぱらぱらとめくっていたら、ふと檸檬の気配が近づいたので譲はどきりとする。 「一周年記念に」 「……何が?」 「僕がゆずを食べてから、もうすぐ一年」 「はぁ?」  何を言い出すのかと思って聞いていたら、檸檬は至極真面目な顔をして囁いた。 「恥ずかしいことを言わんでよ」 「あ、そう? ゆず恥ずかしかった? ごめん」 「恥ずかしいよ」 「ごめんて」 「大体『ゆずを食べた』って何だよ。檸檬さんが、俺を?」 「ある意味」  檸檬は柔らかい笑みを浮かべ、出掛ける用意を始めている。 「一緒に買い出し行こう。で、その本の17ページにあるメニューを作ってみてもいいかな」 「え、ああ……勿論」 「で、夜になったら今度はゆずのことをオフトゥンで食べよう」 「……オフトゥン」  真面目な声でふざけられると、どんなリアクションをして良いものか悩む。一年経ってもよくわからない人だなあ、と心の中で呟いて、譲は17ページにあるレシピの材料をメモすると立ち上がった。
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