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わざとなのか本気なのか、どこか寂しそうに囁いた檸檬は、ソファから立ち上がると抱いていたクッションを置いて譲に腕を伸ばした。
「少しのお別れのハグ」
「……大げさ」
付き合って一年になるが、こういう行為自体に照れてしまう譲は、ひっこめられない檸檬の腕を少しぞんざいとも思える力で引いた。
「お別れなんて言うなよ、檸檬さん。ちょっと出かけるだけ」
「んじゃ、お出かけのハグ」
「いてて! 力強いよ」
背中に回された檸檬の腕は、結構強い力で譲を抱き締めてきた。本気で痛かったので思わず声が出てしまう。
「いってらっしゃい、ゆず。僕の『旨いもん』はゆずだよ。オフトゥンで待ってるからちゃんと帰っておいで」
檸檬は腕を解いてまたソファに腰を下ろした。
旨いもん認定されてしまった譲は、帰ってきたあとのことを考え、いろんな妄想が広がっていく。
「楽しみにしてるからね」
檸檬は別に嫉妬しているわけではないのだろうか? よくわからなかったが、とりあえず約束の時間もあるので突っ込んでは聞けなかった。
帰ってきたら、オフトゥンの中でじっくりと聞いてみよう。
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