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牛乳、卵、ホイップクリーム、ホッケの切り身。
ホッケの、切り身。
「ナーやん……これ」
「ホケミ」
「ホッケだよな」
「いや、わからんちゃ。間違えた俺も悪かったかもしれんけんど、ちゃんとホットケーキ作るっちゆわんお前にも過失はあるよな」
悪びれもせずに笑う和睦は、テーブルでノートを広げて何かに集中している檸檬の前に腰を下ろすと、こねこねこねこの封を切った。可愛らしい仔猫の絵が目印の、ベストセラー商品だ。程よくこねると、猫の肉球の感触に近づく。
「ホッケで今の檸檬さんの気を引けるとは思えない……だけどナーやんに折角買ってきてもらった食材を無駄にするわけにも……」
譲がぶつぶつと悩み始めたので、さすがに和睦も悪い気になってきた。
「譲ぅ。ごめんな。俺の出来ることなら手伝うけ言うちょくれ」
「いやいい……」
「怒んなちゃ」
「怒ってない。ナーやんはこねこでもこねてろ」
「……そうかあ」
実際、和睦が料理の役に立つとも思えなかったので、こねこねこねこをこね始める。薄ピンク色の知育菓子が周囲に香ばしい香りを撒き散らす。猫の肉球の匂い、などというコンセプトらしい。
「このこねる感じがたまらんのやちゃな。なあ、リモネンもやってみるか?」
「……今……僕は忙しいんだよ」
「――檸檬さん?!」
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