その1 譲と檸檬

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その1 譲と檸檬

「今日の夕飯どうする?」 「何でもいい。僕はゆずが食べたいものに合わせるよ」  檸檬(れもん)は本から目を離さないで、気のない返事をした。  (ゆずる)が本来の名前だったが、檸檬には微妙に略されて、ゆずと呼ばれている。柚子(ゆず)と檸檬は柑橘系で相性が良いだろう、などという意味不明な口説き文句から、二人の付き合いが始まった。 「作る身にもなれよ」  一緒に暮し始める前から譲はうっすら気づいていたが、檸檬は食に対してほとんどこだわりがない。作る気もないようなので譲が作る羽目になる。 「はー……仕方ない。ちょっと行ってくる」 「どこに」 「食材の買い出しだよ。なんもないだろ。檸檬さんは部屋に居てくれていいから」 「いや、僕もゆずと行きたい。……あ、そうだ待って」  檸檬は本を置いてソファから立ち上がろうとしたが、座り直して譲を手招きした。 「ゆず、おいで」 「いや、出掛けるんだろ」 「まあまあちょっとおいでよ」  仕方なくソファに腰を降ろしたら、先ほどから檸檬が読んでいた本が譲の視界に入った。
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