Ⅰ コバルトの伝言

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 お酒に弱いせいで、飲んで帰ってきた翌日、ヤツはたいてい昼まで起きない。  一方朝っぱらから完璧に髪まで巻いたわたしは、自分の持っている服のなかでいちばんかわいい服を身にまとって、布団でグウスカと眠りこけている男を一瞥した。  なんてのんきな顔だろう。今日の昼ごろには、その顔は真っ青に変わっているというのに。それを想像するとちょっとおかしくて、わたしは不敵に笑って寝室を立ち去る。  貴重品、チェック。明日の着替え、チェック。あの人への連絡、チェック。……テーブルの上の書置き、チェック。  いろいろ迷ったけれど、結局、少しのお情けでちょっとわかりやすいやつにしてみた。本当はバスルームにルージュの伝言でもしたかったのだけれども、さすがに掃除のことを考えると面倒でやめた。  わたしがこっそり大好きな、とあるアニメのとあるセリフ。伝わるかなんて五分五分だけど、この際、少しは迷え。どうぞ困ればいい。  『パターン青、使徒です!』。  そう書いてみた紙切れを見やすいようにダイニングテーブルに置きなおして、わたしは、ヤツの実家・箱根へ向けて、ちょっとした冒険へ一歩足を踏み出した。
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