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やはり予想通りだった。男を喪失した母は気の毒な位に憔悴しきっている。私は蹲る母の側にそっと寄り添い肩を抱いて慰めた。
「お母さん、しっかりして」
嗚咽を繰り返す母の顔は涙と鼻水でグジャグジャで。だがどんな化粧よりも美しい。
「どこにいるの。淳」
母はがばりと身を起こすと私を強く抱きしめて大量の血液をワンルームのマンションに残して姿を消した愛しい恋人の名を呼んだ。
ああ、母はまだ溺れているのだ。
「大丈夫。側にいるよ」
私は母の背後に積み重なる、歪んだH《Head》やR《Right arm》のマーク付きの箱を瞳に写して密かに狂酔の笑みをこぼした。
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