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母は観察する私に気が付くと鋭い上向きの眼差しで鏡越しに噛み付いた。
そうだ母は今、猛烈に機嫌が悪かった。
私は返事を濁すとローテーブルの上の書類をおぼつかない手付きで掴みとり慌てて視線を落とす。
だがどうやらまだ母の虫の居所は収まらないようだ。
「あの箱何とか出来ない?邪魔なんだけど」
今度は壁際に置かれたダンボールの山に目をつけた。このまま黙っていればきっと処分するまで母の口は止まらないだろう。
私は書類の隅で転がっていた黒色の油性ペンを手に取り立ち上がると私の後に指をさす母にくるりと背を向ける。
そして箱があたかも必要な物であるかの様に『H』や『R』等のアルファベットの一文字を大小全ての箱の右端にアピールする様にマークした。すると思惑通り無言のミクロプレゼンは成功。母は首を傾げながらも私が没頭する研究の存在を渋々容認した。
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