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ある日のこと、屋敷に1人の娘がやってきた。なんでも身寄りがなく、街をさまよい歩いていたところをお母さまが拾ってきたのだそうだ。それにしては衣服はほつれひとつないし、髪にはツヤがある。やけに小ぎれいな身なりなのは、ここに来る間に母が世話でもしたためだろうか。探る気は毛頭ないけれど。いずれにせよ、きっと大変な環境の中を1人生き抜いてきたに違いないと自分に言い聞かせた。
「娘は多いに越したことないからねぇ。よろしく頼むよ」
その発言の真意を、わたしはまだ知らなかった。
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あたしが家をなくしたのは15のときだった。
なくした、というにはいささか語弊があるかしら。滅ぼしたというほうが正しいわね。
実家は裕福だったが、あたしが欲望のままに散財し、贅の限りを尽くした結果破産した。母は逃げ、父はそれらを苦に首をくくったが、詮無きこと。あたしにとって家とは、自分が快を得るための手段のひとつでしかなかったからだ。
「これから、どうしようかしら……」
そのつぶやきに、不安や絶望といった要素はなかった。
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