麒麟センセーの日常

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 私はため息をつきながら、学校裏にある飲み屋にやってきた。  今日も3人の生徒から母親の愚痴を聞き、それぞれにいい所のあるお母さんたちなのに、何を贅沢言っているんだと叱りたい。叱りたいのだが、生徒たちは多感なお年頃なので、言葉を選ぶのも大変なのである。  1人目。出席番号3番。ユニコーン。  麒麟先生。聞いてくださいよ。うちの母…また、家庭教師を雇うとか言いだしたんです。別に勉強なんて、学校で先生の言っていることを聞いていれば普通に90点以上とれるというのに、うちの母はそれでは納得しないんです。  小生は誰でも覚えるようなことよりも、もっと興味を持った専門的な知識が欲しいし、その方が将来の役に立つと思うんですよ。  その点、ペガサス君のお母さんはいいですよね。あそこの一家は毎日のように外に出ているじゃないですか。家の外にはいろいろなものがあって、特に自然というものは観察するだけでも、本当の意味での勉強になります。  体を動かせば筋肉とか骨格の動きを肌で感じることもできますし、小生もペガサス君のお母さんのような人が欲しかったです。  2人目。出席番号11番。ペガサス。  キリンっち。聞いてくれよぉ。うちのかーちゃん、またアホなこと言い始めたんだよ。今度は、日帰りで箱根まで行って温泉でひと息ついて、戻ってきましょう…だってさ。  何時に出発するのか聞いたら、朝の4時半だぜ4時半。じょーだんじゃねーっての。こっちは疲れてんだから、休日くらいゆっくり寝かせろっての。  あーあ、こんなことなら俺…ケルピーの家に生まれたかったよ。  ケルピーの母ちゃん、とても美人だしスタイルいいし、最低でも空を飛ぶことしか能のないうちのより、全然いいと思わねえ?  ああいうかーちゃんと砂浜でかけっこできたら、俺きっと…ダービー馬になるまで走っちゃうよ。朝の4時半でも3時でも喜んで付いて行くねぇ!  3人目。出席番号18番。ケルピー。  センセー、麒麟センセー。聞いてよぉ。  うちのママ、また変な健康食品を買ってきて、私にも食べろと言うんですよ。確かに、太ったら体に悪いけどさー。私って、そんなに太ってる? 大体、450キログラムって、馬の中だと標準より軽いくらいだよねえ?  なのにうちのママときたら、毎日カロリー計算して、家の体重計の前に私の体重の推移表を張り出してるの。  休日になると、付き合いでいろいろなスポーツをさせられるし、もうこんな生活にはうんざり!  お受験も近いのだから、勉強しなきゃって思ってるけど…肝心の母はスポーツ推薦とか言い始めてるし、こうなると…ユニコーン君が羨ましいよね。  家庭教師を付けてくれるほど教育にも熱心だし、最低でもうちのママよりも、将来のことをきちんと考えてくれてそう。  それらの愚痴を、先に飲み屋でひと息ついていたドラゴン先生に打ち明けると、彼も困った顔をした。 「なるほど、麒麟先生のクラスも大変ですね」 「ええ、こういうことなら、1組の…ドラゴン先生のクラスの方が良かったと思いますよ。竜族の生徒はここまで他人を羨んだりしませんから」 「いやいや、こっちはこっちで肌の色での対立が凄くて手に負えません。個人的には、3組の獅子王先生のクラスが羨ましいです。彼らはインターハイに向けて、いつでも一丸となっていますから…」  後日、我々の愚痴を知った獅子王先生も、切実な意見を口にしたのだが、それはまた別の話。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!