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回想を終え、彼女を見る。
彼女は既に立ち上がっていた。
「ま、こんなところでじっとしていても仕方がないわね」
未だ事態を呑み込むことが出来ず、整理することで精一杯の僕とは対照的に、彼女は今にもこの闇を一人突き進んでしまいそうな勢いだった。
僕も慌てて立ち上がる。
「おい、どこ行くんだよ」
「知らないわ。ここがどこだかも分からないのよ?」
彼女は、それでもここにいるよりはマシでしょと、逡巡する僕を置いてとうとう歩き始めた。
一寸先は闇。
いくらこの目が暗闇に慣れてきたとはいえ、このまま離れてしまえばすぐにでも彼女を見失ってしまうだろう。
「ま、待てよ」
僕は気弱に彼女の隣へ駆けた。
そんな情けない僕に、彼女は何も言わなかった。
意外だった。
常の彼女なら、恐がりだなんだと僕をからかっては笑っただろうから。
「お、おい。何か言えよ」
そんな小さな異常でさえ不安に思う。
それほどにこの暗闇は、深く静けさに満ちていた。
「ねえ」
彼女の澄んだ声が闇に溶ける。
いつの間にか、彼女は足を止めていた。
するりと、彼女の白い指先が僕の視界を横切る。
「あれ、何?」
「は?」
彼女の視線を辿ると、そこには、
「……光?」
小さな淡い白い光が、遠くぼんやりと、けれど確かにそこに鎮座していた。
さっきまではなかった。
これは断言出来る。見落とすはずがなかった。
「行ってみよう」
彼女は喜々として歩きだす。
得体の知れない光が、今の僕らの希望になる。
僕も彼女に続いた。
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