PANDORA

3/11
前へ
/11ページ
次へ
回想を終え、彼女を見る。 彼女は既に立ち上がっていた。 「ま、こんなところでじっとしていても仕方がないわね」 未だ事態を呑み込むことが出来ず、整理することで精一杯の僕とは対照的に、彼女は今にもこの闇を一人突き進んでしまいそうな勢いだった。 僕も慌てて立ち上がる。 「おい、どこ行くんだよ」 「知らないわ。ここがどこだかも分からないのよ?」 彼女は、それでもここにいるよりはマシでしょと、逡巡する僕を置いてとうとう歩き始めた。 一寸先は闇。 いくらこの目が暗闇に慣れてきたとはいえ、このまま離れてしまえばすぐにでも彼女を見失ってしまうだろう。 「ま、待てよ」 僕は気弱に彼女の隣へ駆けた。 そんな情けない僕に、彼女は何も言わなかった。 意外だった。 常の彼女なら、恐がりだなんだと僕をからかっては笑っただろうから。 「お、おい。何か言えよ」 そんな小さな異常でさえ不安に思う。 それほどにこの暗闇は、深く静けさに満ちていた。 「ねえ」 彼女の澄んだ声が闇に溶ける。 いつの間にか、彼女は足を止めていた。 するりと、彼女の白い指先が僕の視界を横切る。 「あれ、何?」 「は?」 彼女の視線を辿ると、そこには、 「……光?」 小さな淡い白い光が、遠くぼんやりと、けれど確かにそこに鎮座していた。 さっきまではなかった。 これは断言出来る。見落とすはずがなかった。 「行ってみよう」 彼女は喜々として歩きだす。 得体の知れない光が、今の僕らの希望になる。 僕も彼女に続いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加