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財布の指示に従い、僕らは再び闇を進む。
どのくらい歩いただろうか。
戸惑う僕の手を引いて、彼女は真っ直ぐ闇を切り拓いていく。
財布はあの言葉を最後に消えてしまった。
初めに光が、次に姿が。
残像に触れても、そこには闇があるだけだった。
そして突然、再び光は闇の彼方に現れた。
ようやっと光源に辿り着いた時、それは喋った。
「愛されたい」
今度は驚かなかった。
声の主は足元のぬいぐるみだった。
「愛される資格が欲しい」
釦の目から白い綿が溢れ出る。
「悲しいの?」
彼女が身を屈めると、ぬいぐるみは顔を上げた。
「君は、誰?」
「あなたと同じような存在、かな? 私たち、気がついたらここにいて、多分、閉じ込められている」
「そっか。君たちは何を願ったの?」
「願い?」
「そう。ここは誰かの箱の中。箱の主が認めなかった想いが封印されるパンドラだよ。かく言う僕も、願ってしまった」
「何を願ったんだ?」
「ありのままでいたい」
僕は硬直した。どこか、既視感があった。
「人の目を恐れよ、人と違うことは悪なのだ。
……箱の主が言うんだ。僕にはまだ反発心が残っているけど、それもいずれ闇に喰われてしまう。お願いだ、僕が僕である内に。僕は、僕であることに誇りを持って良いよね?」
痛いくらい、それは切な願いだ。
「当たり前よ」
強い口調で彼女は答える。
彼女を見るぬいぐるみのツギハギの口角が上がった気がした。
「ありがとう。でも、君じゃない」
悲しそうに首を振るぬいぐるみの視線が、ぐるりと僕へ移る。
「君だ。君に、言って欲しい」
僕を見据える釦の目が痛い。
「君じゃなきゃ、駄目な気がする。ねえ、僕の為に、君の心を言って」
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