PANDORA

6/11
前へ
/11ページ
次へ
財布の指示に従い、僕らは再び闇を進む。 どのくらい歩いただろうか。 戸惑う僕の手を引いて、彼女は真っ直ぐ闇を切り拓いていく。 財布はあの言葉を最後に消えてしまった。 初めに光が、次に姿が。 残像に触れても、そこには闇があるだけだった。 そして突然、再び光は闇の彼方に現れた。 ようやっと光源に辿り着いた時、それは喋った。 「愛されたい」 今度は驚かなかった。 声の主は足元のぬいぐるみだった。 「愛される資格が欲しい」 (ボタン)の目から白い綿が溢れ出る。 「悲しいの?」 彼女が身を屈めると、ぬいぐるみは顔を上げた。 「君は、誰?」 「あなたと同じような存在、かな? 私たち、気がついたらここにいて、多分、閉じ込められている」 「そっか。君たちは何を願ったの?」 「願い?」 「そう。ここは誰かの箱の中。箱の主が認めなかった想いが封印されるパンドラだよ。かく言う僕も、願ってしまった」 「何を願ったんだ?」 「ありのままでいたい」 僕は硬直した。どこか、既視感があった。 「人の目を恐れよ、人と違うことは悪なのだ。 ……箱の主が言うんだ。僕にはまだ反発心が残っているけど、それもいずれ闇に喰われてしまう。お願いだ、僕が僕である内に。僕は、僕であることに誇りを持って良いよね?」 痛いくらい、それは切な願いだ。 「当たり前よ」 強い口調で彼女は答える。 彼女を見るぬいぐるみのツギハギの口角が上がった気がした。 「ありがとう。でも、君じゃない」 悲しそうに首を振るぬいぐるみの視線が、ぐるりと僕へ移る。 「君だ。君に、言って欲しい」 僕を見据える釦の目が痛い。 「君じゃなきゃ、駄目な気がする。ねえ、僕の為に、君の(本当)を言って」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加