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結論から言えば、彼は同好の士ではなかった。
でも、殺人犯であることは間違いなかった。
私との違いは、彼は仕事で人を殺すってとこ。
「つまり、殺し屋ってこと?」
「うーん、暗殺者のほうがいいかな」
「スナイパーみたいな?」
「うーん……まあなんでもいいですよ」
あの後私達はラブホテルにいた。
夜遅くに、人目を気にせずゆっくり話せる場所がそれしか思いつかなかったのだ。他意はない。
「いいなあ、私も殺し屋に就職しようかしら」
大きなベッドに寝転び天井を見上げる。
「僕のとこ、快楽殺人鬼はお断りなので」
「そういうもの?」
「そういうもの」
彼も隣に寝転ぶ。
「殺し屋にもコンプライアンスとかあるんだ?」
「身分的には公務員だからね。あ、これは秘密です」
「公務員?政治家に雇われてるとか?」
「一応、県の職員。役所の末端に所属してるんだよ、暗殺者たちが」
「へえ……都市伝説みたいね」
「そういう認識でけっこうです」
ねえねえ、と声をかけて彼の顔を眺める。彼もこちらを見つめる。長いまつ毛。整った鼻筋の王子様顔。
「名前聞いたら教えてくれる?」
「秘密です」
「じゃあさ、秋山くんって呼んでもいい?」
「なんでもいいよ」
「公務員の殺し屋ってどんな人を殺すの?」
彼は私の頭に手を伸ばし答える。
「君みたいな人」
途端にぞっとした。
私の頭を握る彼の手が、私の頭を握りつぶすところを想像してしまった。
「安心していいですよ」
彼は私の頭を優しく撫でながら言う。
「上司の許可なしに人殺しはできないから」
「でも、いつかは殺すの?」
「そうだね。君みたいな野放しの連続殺人鬼なんて起案すればすぐに決裁が降りるね」
「例えばどれくらい」
「3営業日以内には」
私は正座して言う。
「もう人は殺しません、って言ったら見逃してもらえる?」
「どうかな」
「見張っててよ、私のこと。一緒に住んでもいいよ」
「それは勘弁」
「じゃあ、毎週末デートして」
「え?」
「毎週末、私と一緒にいてほしい。そうしたら、私はもう誰も殺したりしない」
「君がたとえ、これから誰も殺さないとしても、僕はいつかは君を殺します。それは変えられない」
でも、君の件、起案は後回しにしてあげてもいいかな。と彼は言った。私の生きる権利は彼に握られている。
彼がその気になれば、3営業日以内に私は死ぬ。
「デートの約束は?」
「いいよ」
面白そうだから、と彼は笑った。
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