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その後私は、大きなお風呂を堪能して、大きなベッドでぐっすり眠った。
起きたら彼はいなかった。
でも、また会えると思った。だって約束したから。週末のデートを。
連絡先も交換しないで待ち合わせるなんて、人生で初めての経験だろう。
デートに向けて、新しい服を買い、ネイルを整え、お気に入りの化粧で準備万端。
これだけ期待して居なかったら寂しいけど、そのときは憂さ晴らしに誰かを殺そう。
待ち合わせ場所も決めてないけど、あの公園に行ってみよう。時間は13時ちょっと前。午前中に行ってひたすら待つのは辛いから。保険をかけて、午後にした。
年甲斐もなくそわそわする。
デートの前の緊張?会えたら会えたで殺される可能性もある。3営業日以内と言っていた。とっくに経ってる。少しだけ、胃の裏が痛む気がする。
公園についた。
あたりを見渡す。
いた。
小さな噴水の前のベンチに腰掛けて読書をしている彼。
私は静かに近づく。気配を殺して。
3mくらい近づいたところで彼は顔をあげた。
「本当にきた」と微笑む彼。
「それはこっちの台詞」
なんで来たの?と誘っておいて随分な質問をしてしまった。
「そうですね……美人とのデートに興味があったから、かな」
「適当なこと言って」
ふふっと笑って彼が席を立つ。
「さて、どこに行きたい?」
「何も考えてなかったわ」
「紅葉狩りなんていかがです?」
よく見たら、鮮やかな紅葉がこの小さな公園にも広がっていた。
「うん、素敵」
エスコートしてよ、と私が手を伸ばす。
執事のように恭しく私の手を取る彼。
さあ、私はいつ彼に殺されるんだろう。
デートの高揚感。命を懸けたスリル。このわくわくがいつまでも続いてくれれば。
「あ、デートの前にランチしてもいいかな。朝から君を待ってたらお腹空いちゃった」
きっと私は普通になれる。
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