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前に見たサスペンスドラマ。
名探偵はだいたいこう言う。「自殺する人間が数日後の予定を入れているのはおかしい」って。
でも私は死のうとしている。
今週分のドラマの録画も、来週通販で届くはずの洋服も、予定はたくさん詰まっているけど。
人間の行動は、なかなかセオリーどおりにはいかないみたい。
8階のベランダから地上を眺める。強い風に長い髪が乱れる。自分で自分を殺すのは、なかなか勇気がいるみたいだ。
後ろから、ドアをこじ開ける乱暴な音が聴こえる。大きな声で名前を呼ばれた。振り返ると、簡易的なバリケードが全て突破されていた。
ここ最近で見慣れた顔の、背の高い男の人が近づいてくる。なぜだか私は身動きがとれない。その顔をずっと見ていたい。
「よかった、間に合った」
彼は私を強く抱きしめて、続けて言った。
「もう大丈夫。僕が君を殺しに来たよ」
私の体は宙に舞った。
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