プロローグ 何かがおかしい

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『今日の東京都心の気温は28度。 夏日となりそうです。』 『季節外れな気温ですね。』 「まだ4月なのに28度って 温暖化が進んでるな。あっ、 いけねぇ早くしないと。」 自室のテレビで天気予報を観ながら ぶつぶつと独り言。 暑い外とは違いエアコンが効いている この部屋には柔らかな春の日差しが さしていて気持ちがいい。 俺の名前は土矢光。今日から高校一年生。 高校生になるというのは自由が増える反面、 行動に責任を持たなくてはいけなくなる。 そう考えると急に心が重くなった。 まぁそんな話は後にして......。 今日は高校の入学式がある。 ただ、両親はどうしても外せない 仕事があるらしく俺一人で 行くことになった。 普通、入学式というのは親と一緒に 学校に行き、校門で記念撮影をしたりと 親が必須の行事ということは 俺も重々承知しているが 共働きの両親がいるこの土矢家では これが普通なのだ。中学生の時も 体育祭やら、文化祭やら、授業参観 やらと様々な学校行事があったのだが 親が来てくれたのは指で数える くらいしかない。 そんな時、いつも俺は 悲しいのか、嬉しいのか なんとも言えない気分になる。 もちろん、授業参観なら喜ぶが。 「光、朝ご飯食べないの?」 母親が俺の部屋にやってきた。 眠そうな顔をしている。 「途中のコンビニで何か買うから大丈夫。 駅の椅子にでも座って食べるよ。 遅刻しそうだし。」 「ごめんね。せっかくの 入学式なのに行ってあげられなくて。」 本当は恥ずかしいから 一人の方が気持ちが楽で良いんだが。 「仕事なら仕方ないよ。 じゃあ行ってくるわ。」 「気をつけてね。」 外に出ると一気に暑さが体に伝わってくる。 やはり天気予報通りだった。 近くの『コンビ10』でおにぎりを買う。 ここのコンビニは店の規模は 小さいが品揃えが良い。 俺のお気に入りだ。 「飲み物はとりあえず買わなくても 大丈夫かな。」 会計をしてコンビニを後に しようとしたとき スマホの通知音が鳴った。 新菜からのLINEだ。 「まだ電車乗ってないの?早く来て。」   河合新菜。 俺の幼馴染みの女子で親友。 高校も同じ学校に通うことになっている。 新菜はノリが良くて面白いが短気で 正直あまり好きでは無い。 「もう少し性格が良かったらな・・・。 残念・・・。」 思わず口に出してしまった。 気をつけないとな。 それにしても今日は本当に暑い。 首の辺りから汗が垂れてくる。 しばらく歩いていると 急に頭が痛くなってきた。 熱中症のサインかもしれない。 そういや今日、 水分補給をしていなかったな。 「やっぱり飲み物買うか。」 しかし、近くにコンビニは見当たらない。 自動販売機も探したがここは住宅地 なのでそう簡単には見つからない。 仕方がないので我慢して歩くことにした。 迫り来る頭痛や倦怠感と闘いながら 最初のうちはなんとか歩くことができたが 段々意識が朦朧としてきて気がつくと 俺は歩道のど真ん中で倒れていた。 「誰か助けて。」 ただでさえ人通りの少ない道だ。 当然、俺の呼びかけに応じる人は 誰もいない。 電話で助けを求める事も考えたが スマホは倒れた衝撃で 数メートル先に飛んでいってしまった。 俺は薄れゆく意識の中で飲み物を 買わなかった事を今更ながら後悔した。  
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