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「大丈夫か?しっかりせい。」
誰かの声でようやく意識を取り戻した俺。
前に立っているのは心配そうな顔で
こちらを見つめている老人。
身長は俺と同じくらいだろうか。
着物を着ていて下駄を履いている。
今どき珍しい服装だ。
口元には自然な感じに洗練された
無精髭が生え男らしさを引き出している。
優しそうな顔とは裏腹に
どこか威厳を感じた。
俺の頭の中にこの老人が
茶の間で新聞を読みながら
家族と朝食を食べている
光景が浮かぶ。
「おーい。意識ある?
診療所に連れて行って
あげようか?」
俺は慌てて立ち上がる。
「すいません。
暑さで倒れてしまったようで。
少し良くなったので
もう大丈夫です。」
「死ななくて良かったよ。
今日は暑いからな。
ちゃんと水分補給するんだぞ。」
「はい。」
やばい、このままでは電車に
間に合わない。
俺の最寄り駅は各駅停車しか
止まらない為一本でも
逃してしまうと致命的なのだ。
老人には申し訳ないが
早く行かなくては。
「すいません。ちょっと
急いでいるのでこれで失礼します。
助けてくださり、ありがとう
ございました。」
「もう少し休んだ方が
良いんじゃないか?
まぁ、でも体調が回復したなら
良かった。気をつけてな。」
幸いなことに俺は
人とのコミュニケーションが
得意だ。初対面でも躊躇なく
話すことができる。
老人に丁寧に御礼を言うと俺は
駅に向かう道を急いで歩き始める。
長い坂道を上り、坂道を下り、
数メートル先に改札口が
見えてきた。
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