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これで電車に間に合う!と思った
そのとき。
「なんだこれ?」
俺は目の前にある電柱の看板に違和感
を感じ、思わず立ち止まってしまった。
街区表示板だろうか。
街でよく見かけるアルミニウム製の
青看板だ。
だが、そこには白い文字で
『江戸南地区4丁目』という明らかに
おかしな地名が書き込まれていた。
なになに、東京の下町ならあり
得るかもしれない?
そんな馬鹿な。
俺の最寄り駅は小田急線の柿生駅だ。
柿生駅は神奈川県にある。
東京都ではないし、そもそも
江戸なんて地名、この辺りにはない。
「江戸って何時代だよ・・・。
不思議な看板だな。」
誰かのいたずらだろうか。
しかし、おかしかったのは
それだけではなかった。
駅に着くと周囲にいる通勤客の多くが
着物を着ている事に気がついた。
もちろん中にはスーツを着た人もいるが
圧倒的に着物の人が多い。
会社に着物を着ていく事なんて
あるのだろうか。
あの有名な磯野波平さんだって会社に
行くときはスーツを着ているのに。
「成人式でもあるんですか?。」
俺はおもわず近くにいた男性に尋ねた。
今の状況を体験したら誰もが
尋ねるであろう質問だ。
「は?何を言ってるんだ君は。
着物はこの国の伝統文化だぞ。」
どういう事だろうか。
「あの、ちょっと気になる事が
あるんですけどここは
神奈川県であってますよね?。
さっき看板に江戸南地区って
書いてあったんですけど。」
状況があまりにも理解できないので
意味不明な質問をしてしまった。
さっきも言ったが柿生は俺の最寄り駅だ。
出かけるたびに毎日この駅を使っている。
ここは神奈川県で間違いない。
江戸なんて地名が存在する
わけがないのだ。
自分の最寄り駅で
『ここは神奈川県ですか?』なんて
当たり前の事を人に
尋ねるのは俺ぐらいだろう。
「神奈川県なんて地名聞いた事ないな。
不思議な奴だ。
だいぶ前にここら一帯は武蔵国から
江戸南地区になったぞ。」
なんだって?。
武蔵国?江戸南地区?
なんでみんな着物を着ているんだ?
もしかしてさっき倒れたはずみで
異世界に来てしまったとか・・・。
だがSF映画やライトノベルじゃあるまいし
そんな事が本当に現実で起こるのだろうか。
でも、今の状況からすると
何かしらの超常現象が起こったのは確実だ。
じゃあ俺はすでに死んでしまっていて、
今俺がいるこの場所は
死後の世界なのだろうか。
使い慣れた駅。見慣れた商店街。
いつも見ている光景だ。
俺は今、目の前で起こっている事を
よく理解する事ができなかった。
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