32.出発の朝

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 ベンチに腰掛け、コロからリードを外す。尻尾をぶんぶんと振って一緒に走ろうと誘うコロの頭を撫で、語りかけた。 「ボールもってくれば良かったね」  ボールの言葉にコロはぴくりと反応したから、つい笑いながら尻尾の付け根を軽く叩いた。 「ごめん。一人でかけっこだ」  それを合図に走り出す。コロがぐるぐると公園を走る姿を目で追いながら、私はゆっくり俊成君にもたれかかった。手がそっと伸ばされて、自然に二人の指が絡み合う。  ただの幼馴染から関係が変わり、その後何度か俊成君を受け入れた。初めてのときはなんだかよく分からなかったりただ痛かった感覚も、馴染むうちに気持ちよさに変わっていく。人の体って、不思議だ。  けれど、やっぱりこうして触れ合うのはどきどきする。どきどきして、心臓を掴まれた様になって、顔をあわせることが出来なくなって目線が落ちる。それでも今までと違うのは、どきどきするのと同じくらいに安心もするってこと。触れ合った肌と肌からお互いの気持ちが滲み出すみたいに伝わって、幸せになる。
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