1.最初のはじまり

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1.最初のはじまり

「ただいまー!」  保育園から帰ってかばんを置くと、自転車籠から荷物を出しているお母さんの横を通り抜け、私は家の前の通りを駆け抜けた。 「あずさ、どこ行くの!」  毎日のことなのに、いつも決まって慌てたように叫ぶお母さん。 「 俊成(としなり)君のうち!」  私も負けずに叫び返すと、さらに早く駆けてゆく。倉沢(くらさわ) 俊成(としなり)君は、私の家の角を曲がった突き当たりに住んでいる。『トモカセギ』でいつも遅れてお迎えに来るうちのお母さんより、俊成君のおばあちゃんのほうがお迎えは早い。それに俊成君の通う保育園のほうが私の通う保育園より場所が近いんだ。  早くしなくちゃ。今日は水曜日だから、俊成君のおうちでテレビを見る日なんだ。 「あれ? あずさ。」  木造の二階建て、倉沢家の玄関にたどり着くと、ちょうどそこから出て行こうとした学生服のお兄さんに出会った。 「カズお兄ちゃん! 塾なの?」  和弘(かずひろ)お兄ちゃんは中学三年生。倉沢家の一番上のお兄ちゃん。俊成君や私とは十も歳が離れているんだ。
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