4.夏の散歩

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4.夏の散歩

「お母さーん、お姉ちゃんはぁ?」  小学五年生の夏休み。学校のプールから帰ってくると、私は玄関から台所に向かって声をかけた。 「もう、とっくに行っちゃったわよー。」  台所から聞こえるお母さんの声。その返事に嬉しくなって、私は一人密かに笑う。 「ねえ、コロはー?」  つい二週間前に我が家の一員となった犬の名前を呼ぶ。コロはお母さんの返事を待つまでもなく、自分の名前に反応して駆けてくると興奮したようにキャンキャンと鳴き、千切れそうな勢いで尻尾を振った。 「コロ、ただいまー!」  頭をぐりぐりと撫でて、コロの期待に応えてあげた。  話は今年の春までさかのぼる。  元々、我が家の長女、奈緒子お姉ちゃんは小さな頃から大の動物好きで、犬を飼うのが夢だった。この動物好きというのはお父さんの血筋らしく、お父さんの田舎では犬は必ず飼うものだった。それなら我が家でも犬を飼うのは簡単と思えるけれど、そうもうまくは行かない。  この四人家族で犬を飼うに当たっての当面の問題は、誰が散歩をするのか? だった。
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