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32.出発の朝
早朝五時。前夜、セットしてあった目覚まし時計はきっちりと鳴り響き、私は寝ぼけたまま音を止めた。さすがにこの時間はまだ薄暗いけれど、でも朝の光はぼんやりと差し込み始めている。
大急ぎで顔を洗って着替えて時間を確認すると、五時半ちょうど。そろそろかなって思いながら玄関まで行くと、まるで見計らったかのように控えめなノックの音が聞こえた。
「すごい。時間ぴったりだ」
ドアを開け、おはようも言わずにつぶやいた。目の前に立つのは、俊成君。
「こんな時間にチャイムは鳴らせないだろ」
もっともな意見にそれもそうかとうなずいて外に出ようとしたら、コロに大きくワンと吠えられてしまった。
「散歩に連れて行けって言ってる」
「連れてけよ。いいよ。俺もコロと一緒がいい」
そういって、がしがしとコロを撫でる。なんだかそこには男の友情が出来上がっていた。
あの夜から約三週間。今日は俊成君が出発する日だ。
コロを連れて外に出て、しばらく無言で二人と一匹、歩いていた。俊成君の背中にはリュック。片手に紙袋は持っているけれど、これから旅立つにしては身軽すぎる。
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