256人が本棚に入れています
本棚に追加
「受験生だから。って、言ってもあずさには分からないか。あと十年したらあずさも俊成もこうなるんだぞ」
優しい口調。でもやっぱり私には良く分からないや。とりあえず私はお兄ちゃんの後姿に大きく手を振って、見送ることにした。
「いってらっしゃーいっ!」
カズお兄ちゃんは振り返らなかったけれど、代わりに肩越しに手を振ってくれた。
と、ここでゆっくりなんてしていられない。早くテレビ観なくちゃ。
「おじゃまします!」
焦るあまりに脱ぎ散らかした靴を慌てて揃え、私は勝手知ったる俊成君のおうちのリビングへ走りこむ。
「はい、こんにちは。あずさちゃん」
「こんにちは、おばあちゃん」
挨拶をしてテレビに視線を動かすと、今夜8時放送予定のサスペンス劇場コマーシャルが流れていた。
「始まっちゃった?」
ソファーに埋もれるようにして座っている俊成君に話しかける。
「まだ最初の歌だけ」
最初のコメントを投稿しよう!