32.出発の朝

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 兄弟が同じ地方で生活始めるのに、別れて暮らす必要は無い。おじさんの意見から、俊成君はカズ兄と同居することになった。地方の特権、低めの家賃で広めの部屋という生活を楽しんでいたカズ兄にはちょっと可哀想かなと思うんだけれど、そんなことはなかったみたい。受験するって宣言された時点で、カズ兄は部屋の片付けを始めていたらしい。心配性で弟思いのお兄ちゃんを持つと、こういうとき下は楽だ。お陰で家探しとか引越しとかで時間を取られること無く、こうしてぎりぎりまで俊成君はこっちに残っていられた。 「その紙袋って、なに?」  我慢し切れなくて、聞いてしまう。 「母さんとユキ兄作、我が家の惣菜。カズ兄に手土産だって」 「いいなー」  大体予想はついていたので、間を置くことなく呟いてしまった。『くら澤』の味はおじさんが作ったものだけれど、おばさんの作るお惣菜だって家庭的で美味しいんだ。ユキ兄のお惣菜の味はホテルにいたせいなのか、繊細な感じ。普段の性格と味付けのギャップがあって面白い。  ついついじっと紙袋を見つめていたら、隣でくすりと笑う声がした。 「やらないよ」 「欲しいって、言ってないもん」
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