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34.新しい日
俊成君が手を差し出すから、右手をつなぐ。左手にはコロのリード。歩きづらいかなって思ったけれど、休日早朝の商店街は人気が無く、歩道をすれ違う人もいなくて問題は無い。気が付けば、地下へともぐる駅改札への看板が見えてきた。つい手を握るその力を強めてしまう。
俊成君はそれには応えず、かわりに唐突に話しをはじめた。
「思い出したことがあるんだ」
「え?」
「去年の夏休みのこと。初めてカズ兄のところに遊びに行って、大学の周りをひとりで散歩してさ」
思い出しながら話すから、ぽつぽつとした口調になっている。私はなにを言いたいのか分からずに、ただ聞いているだけだ。
「塀の脇に空き地があって、雑草とか生えているんだけれど、そこの一角にカンナが植わっていたんだ」
「カンナ?」
「うん。赤いやつ。その風景がなんか良くって。あれ、あずにも見せてやりたいなって、なんとなく思った」
その途端、私の中で子供の頃のあの夏の日がよみがえった。
赤というより朱の色をした、真ん中から徐々に橙、黄色と色が変わる夏の花。立ち姿が真っ直ぐで、炎のようで。俊成君と二人、あの花を眺めていた。大切な二人の思い出。
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