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呼びかけられて、抱きしめられた。気配だけでうながされて、ごく自然に唇が触れ合う。一瞬びくりと震えてしまったけれど、でももう止められなかった。触れ合うだけのキスを、何度も何度も繰り返す。でも、キスをすればするほど別れたくなくなる。追いすがってどこまでもついていきたくなる。我がままだって分かっているけど。
そんな私たちを諌めるように、ひまをもてあましたコロが動いてリードが引っ張られた。途端にようやく我に返る。
「と、俊成君」
「ん?」
「……恥ずかしい」
力が抜けてしまい、腰がふらついて体を預ける格好になっていた。
冷静になって周りを見渡せば、こんな駅前、たとえ交通量が少なくってもやっぱり車とか通りの向こうを渡る人は存在する。お互いさまなんだけれど、恥ずかしさの反動からつい上目遣いで抗議をした。俊成君ははぐらかすように視線をさまよわせ、小さくうなった。
「俺だって恥ずかしいよ。でも」
すっと私に目を合わせると、私の髪を撫で上げる。
「泣かれるより、ましだ」
その柔らかな表情に、逆に泣きたくなる。最近気が付いたんだ。私、俊成君に関連したことばかりで泣いている。
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