34.新しい日

5/6
前へ
/364ページ
次へ
 動こうという考えが浮かんでこない。けれど電車がやってきたのか、階段を数人の乗客が上ってきた。そのときになってようやく気付き、私は慌てて横にどく。その拍子に、ぱふっとコロの体が足に当たった。 「ごめん、コロ」  何も分からず、無邪気にコロが尻尾を振る。その無心に慕ってくる瞳に癒された。やっぱり私、新幹線まで行かなくて正解だったのかも。  横にはどいたものの、まだ立ち去りがたくて、でももう階段を見ていたくなくて、コロのふかふかとした耳をただ眺めた。  多分これから先、私たちの間には色んなことが起こるんだろう。  そんな事を考えていた。  四年の間、俊成君も私も立ち止まってはいられない。環境だけじゃない。心だって変化していく。俊成君は私に待っていて欲しいっていったけれど、俊成君だって私を確実に待つ保証はどこにも無いんだ。  でも、それでも、待っていたい。リードを持つ手に力がこもった。  俊成君がカンナの花を覚えていてくれたから。あの頃から、ううん、生まれたときから二人の関係が始まっていたんだって思えるから、だからこれからの四年間も大丈夫だって思えてくる。
/364ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加