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おまけ話:その9.5
「ただいまー」
そう言いながら奈緒子が玄関を開けると、すでに待ち構えるように立っていたコロがワンと吠えた。宮崎家では当たり前の、家族の誰かしらが帰れば繰り返される光景。
コロを一撫でし、洗面所で手洗いすると、奈緒子はリビングをのぞき込む。そこでは母がお茶をすすりながら、のんびりとテレビを見ているところだった。
「ただいま」
「お帰りなさい。ご飯は?」
「食べる。お腹空いちゃった。今日のおかずって、なに?」
聞きながら、答えを待つことなくテーブルを見る。
「アジの干物にカボチャの煮つけ、お味噌汁。A定食だ」
これは宮崎家の暗号のようなもので、ちなみにB定食は野菜炒めになっている。
「ちゃんと手を洗いなさいよ」
「もうやったって」
味噌汁を温めるため鍋を火にかけ、そこでようやく思い至って奈緒子の動きが止まった。
「二人分残っているけど、お父さんも食べるの?」
「お父さんは今日遅いわよ。歓送迎会あるって言っていたから」
「じゃ、これあずさの? 出かけているんだ」
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