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「倉沢家」
本から目を離さず、あっさりと母が答える。
「倉沢家? 俊ちゃんのとこ?」
思わずお箸を置いて聞き返してしまう。気分転換どころか、直接ぶつかったのだと考えると興味がわいた。
「なんで? どうして行ってるの?」
「カボチャをね、届けに行ってもらったのよ」
「カボチャ」
奈緒子はつい目の前の、A定食の真ん中にでんと出された盛鉢を見つめてしまった。
「これ?」
「百合さんに渡してもらおうと思って」
「俊ちゃんじゃなく?」
「だってあの子、ケンカしていたでしょ。俊ちゃんに渡せって言っても、嫌がるの分かっていたし。だから、俊ちゃんいないから百合さんに渡してって」
表情を変えるでもなく、当たり前のように説明する母。けれど奈緒子の目は細められ、口元には中途半端な笑いが浮かび始めていた。
「俊ちゃんいないって、なんでお母さん知っていたのよ」
「今日は合格発表の日よ。俊ちゃんが見に行くって、事前に聞いていたもの」
「合格したの? 俊ちゃん」
「したわよ。だから持って行きなさいってあずさに言ったの。いつまでもケンカしていても仕方ないでしょ」
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