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そう言いながら、ようやく本から目を離し、お茶を飲む。そんな母の落ち着いた姿に何かを感じ、奈緒子は慎重に聞いてみた。
「それって今さっきの話なの?」
「ううん。六時過ぎくらいかしらね。それっきり、あずさも帰ってこないし俊ちゃんもこないから、多分倉沢家にいると思うんだけど」
「そう」
短く答えると、奈緒子は自分の表情が読まれないように視線を落とし、魚をほぐすのに熱中する振りをした。
付き合っていないのが不思議なほど、お互い好きあっているのがよく分かる、幼馴染の二人。それが一方の都合で離れて行く。今の話でいくと俊ちゃんもようやく踏ん切りがついたのか、かなり切羽詰っている感じだ。
妹のことだから、おばさんがいると思って倉沢家に行き、本人が現れて逃げ出してしまったとかそんなところだろう。家にこの母が控えているから、素直には帰れない。結局戻ってきていない事を考えれば、公園あたりで俊ちゃんに捕まえてもらったか。
「ごちそうさま」
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