252人が本棚に入れています
本棚に追加
気が付けば目の前のおかずはすべて食べつくしてしまい、満ち足りた気分になっていた。もううつむく理由になるものは何もなく、それでも沸き起こる微笑を隠すため、ゆっくりとお茶を飲む。
「俊ちゃん、いい男になったよね」
ついうっかり、つぶやいてしまった。
「あずさがちょっとうらやましいわよね」
くすりと笑っていう母の顔が、妙に優しい。
あれだけ結びつきの深い二人なのにもかかわらず、なかなかお互いの気持ちを確かめ合うこともしないでここまできた。けれど、俊ちゃんがここから出て行く日も近い。この状況ですぐには帰ってこないとなると、大体のことは想像できる。
分かっているのかな?
そっとうかがうように、目の前の母の顔を奈緒子は見つめてみた。
というか、俊ちゃんの話を振ったのに当たり前のようにあずさの話にすりかわっている時点で、全部分かってはいるのだろう。
奈緒子は、音をたててお茶を飲み干した。
「あら、こんな時間」
ふいに気が付いたように、母が時計を見る。気が付けば、もう九時を回っていた。
「食器片付けるとき、あずさのおかずも冷蔵庫にしまっちゃっていいわよ」
最初のコメントを投稿しよう!