252人が本棚に入れています
本棚に追加
おまけ話:二人の時間1. 倉沢家にて
当時八歳の良幸が初めて自分の弟と会ったのは、残暑もまだ厳しい九月の終わりのことだった。新生児室のガラスの向こう、すやすやと眠る赤ん坊を、母と父、祖母と兄の四人で一緒に見ていた。
「名前は?」
散々、目元はどちら似で口元はどちらと言い尽くした後、祖母が尋ねる。
「どうしようかしらね」
疲れたような顔の母がゆっくりと答えると、父が言葉の後を次いだ。
「産まれたばかりだからな。もうちょっと考えるさ」
なんだか表情が柔らかい。兄の和弘はひたすら嬉しそうに赤ん坊を見つめている。良幸は家族の顔をそれぞれ眺めると、もう一度、産まれたてほやほやの弟に目をやった。
並んだベッドの一つの中で寝ている赤ん坊。その顔は最近テレビで見た、宇宙人によく似ていた。あと、埴輪。つむった目がやたらにでっかい奴。
「あれさ」
良幸が口を開いた瞬間、後ろからわぁとかだぁとかの声がした。
「倉沢さん、産まれたんですってね。おめでとうございます」
後ろを振り返ると、近所に住む宮崎さんのおばさんがいた。
「そうなのよ、今朝ね。今ちょうど家族初顔合わせの最中よ。圭子さんは?」
最初のコメントを投稿しよう!