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ももの味(GL)
※GL現代のもです
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シュカッと音を立ててほろよい"もも味"を開ける。
小気味いい音と相対して私の心はどんより曇り空だ。
今にも雨が降りそうな心境の理由は、今日も直属の上司に無視されたから。
世の中の人たちは何でこうも攻撃的なのだろう。
自分の思い通りに動かない人間は攻撃してもいい敵だと錯覚している。
私ははぁ…と重いため息をついて、ほろよいを一口呑んだ。
桃の香りを口いっぱいに味わう。
酒でも呑まなけりゃやってられない毎日だが、今日はまだ木曜日。
ほろよい1本で我慢する、おもいっきりのない私だ。
開け放たれた窓からは冷たい夜風が入ってくる。
窓の外には満天の星空……なんてわけはなく、隣のビルの側面がいっぱいに広がっている。
初めての一人暮らし。
部屋を選ぶ基準なんてわからない。
狭い部屋をさらに圧迫する壁を見つめての晩酌だ。
ーー死んでしまおうか?
ポツンと思い浮かぶ。
またまたぁ冗談でしょ?
と自分にツッコミを入れるが、たらりと冷や汗が流れた。
こんな考えが浮かんでしまうのは、ストレスの発散が追加のストレスに間に合っていないからだ。
もう一本飲んでしまおうか?
まだほろよいが3分の2残っているにも関わらず、缶を揺らしてたぷたぷしながら考える。
たしか冷蔵庫にストロングゼロのビターレモンがあったはず。
私の大好きな味だ。
動くのも億劫だったが、よっこらせと腰を上げる。
お酒の力で気が大きくなった私は明日の仕事なんかどうでも良くなっていた。
3%でこの状態の私はあと一本でも追加すれば本格的に気持ちよくなれる。
ぴんぽーん。
インターホンが鳴った。
外はもう暗い。
こんな時間に突然訪ねてくる相手が思い浮かばない。
まだ半分残っている理性が警鐘を告げ、少し怖くなってくる。
ちょうど腰は上げてしまっている。
ストロングゼロを取りに行くついでに、しぶしぶ玄関へと向かうことにした。
だらだらと玄関にたどり着き、覗き穴を覗くとーー。
ーーサリナがいた。
大学からの付き合いの大好きなサリナだ。
彼女の急な訪問に体のだるさも心のだるさも一気に吹き飛ぶ。
私は急いで鍵を回しドアを開ける。
「どーしたの?仕事は?」
開口一番につまらないことを聞いてしまう。
けれど私のテンションが上がっていることはサリナにも伝わっているだろう。
「疲れたから切り上げてきちゃった」
そう言ってベージュのリップで彩られた口を大きく開けサリナは笑う。
この唇にキスをしたらサリナは怒るだろうか?
先程までの鬱々した気分が吹き飛んだ私の頭は、酒の力も借りて欲念まみれの思考に切り替わる。
きっとコーヒーの味がするであろう唇から目を離し私はサリナに抱きついた。
サリナはよろけながら抱き止めぽんぽんと背中をたたいてくれるた。
私の唇はきっと桃の味なんだろうなと、邪な考えが浮かんでくる。
それを残っている理性を使ってそっと胸にしまいこむ。
解放したサリナをどうぞと部屋へと招いた。
笑顔のまま部屋にあがるサリナを見つめ私は思う。
今夜はたくさん話をしてもう少しだけお酒を飲もう。
何も気にすることはない。
だって今こんなに楽しいんだもの。
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