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冷たい血
高層ビルのワンフロアにある広い会議室、そこでは次に計画している製品の設計図に目を通しているところで話ももう少しで終わりに近かった。
どうでもいい会議に私の頭の中ではさっきまで聴いていたクラシックが鳴っていた、チャイコフスキーのくるみ割り人形の花のワルツ。
静かでゆったりと進む会議にはちょうどいい曲。
ネット社会になり電子機器が必須アイテムになった昨今において我が社【百瀬半導体工業】の躍進は目まぐるしかった。
元は昭和中期に電子電卓を作っていたが大手メーカーの下請けの小さい会社だった。
でもいち早く電子部品の小型化、それに伴う製品の軽量・縮小化へ乗り出した事が功を奏して日本でも有数の電子機器メーカーと大躍進して、特にパソコン・スマートフォンでは国内でかなりのシェアを占めるまでになった。
私はそこでマーケティング部長をしていた百瀬涼音。
この百瀬半導体工業の社長の百瀬研蔵の娘つまりは社長令嬢にあたる。父は経営者としては秀でた人で会社で使いやすいパソコンの計画や若者向けのスマートフォンの開発を決めたりしてかなり経営戦略が上手い人だ。
だが人間性を問われると決して良いとは言えずに女性関係にはだらしない上に相手に対する思いやりが大きく欠如している人で、経営者としては一目置いているが父親として尊敬はしていない。
現に私は今回も父の駒として使われることになった。
「それじゃこの製品の方はこれで渡辺エレクトロと進めていくので秦野部長頼みます、それと以前から話していたが今日で涼音はこっちの仕事納めだ。まあ言ってもちょこちょこ顔出すだろうけど一応挨拶を。」
「はい、今日でこの百瀬半導体工業を退社して手束電子に行きます。今までありがとうございました。それでも取引や共同製作がある会社ですので今後ともよろしくお願いいたします。」
父親に言われて私は席を立って挨拶をしたよくあるテンプレの挨拶には違いない。
本来関係のない会議に出たのはこの挨拶のため、もう明日からここに来ない私にとっては関係の無い会議でしかなった。
私の挨拶で会議が終わって皆が席を立っていく、私も鞄を持って会議室を出ると直ぐに
「可哀想に。」
「あからさまな政略結婚だな。」
「そんなにあの基板の特許が欲しいのか?」
「鼻に着く感じてだったから別にいいか。」
とひそひそと話しているのが聞こえた。
そんな事は昔からだったので今更気にする事はない、政略結婚も事実だし基板の特許を父が欲しがっているのも事実だし鼻につくような態度を取ったことがあるのも事実だ。
会社に入った時からいい顔をされることはほとんどなかった、それは社長の娘が職場に居たらやりずらいのは充分分かる。母譲りの端麗な容姿なのはそれなりに自覚があった、それはそれで嫌味な小言を言われる標的にもなった。
だからそんな嫌味や小言を言わせない為にもとにかく仕事で成果を上げたが、結局はそれが可愛げが無いと印象を悪くしてどう対応しようと高飛車な社長令嬢様のイメージは変わることがなかった
結果として煙たがれるのは最早しょうがないと諦めた。やることさえきっちりやっていれば何も言わせないし言われても勝手に言ってればいいと思っていた。
そんな私が順調に「氷の女王様」や「冷血女」と陰で呼ばれるまでになるにはそう時間はかからなかった。
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