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花のようなあなた
私の命より大切な母のことについて、少しだけここに記す。
間違ってもこれは遺書ではない。しかし、精神を病んだ9年前に書いていたら、遺書と言われても仕方がない。
この文が母にとって悲しいものではなく、感謝が詰まったただの文であるのは、私が今無事に生きているからこそのものだ。
誰のおかげで今こうして生きているのか、紛れもなく、他の誰でもない、あなたのおかげなのだ。
私は幼少期から大変心の弱い人間だった。指にできたささくれを抜いて、少し血が出て痛みがあるくらいの、ほんの些細な嫌なことで人の群れから逃げて小さな部屋に閉じこもる。そんな子だ。
病気など滅多にしない、丈夫な体なくせに、病気であるふりをしてはあなたの気を引いた。
それは、いくつ歳を重ねても同じで。
大人になった今でもあなたに甘えてしまう。
もしもあなたがこの世からいなくなってしまったらと、想像するだけで涙が滲む。
いつか別れの時は来る。きっと何十年も先のことなのだろうけど、例え別れが明日でもまだ先でも、いずれにせよきっと私は耐えられない。それは、心臓を潰されるのと同じことだから。
願うのは、もし生まれ変わりがあるのならば、私は必ずあなたの子でありたいということ。
この願いだけは、何が起ころうと変わらない。
あなたが年老いて私を忘れたとしても、私を嫌いになったとしても、絶対に変わらない。
私は10代の頃から人の命に携わってきた。命とは、心とは、人とは何かを知りたかった。そして、こんな自分でも一つの命を救う手助けがしたかった。
しかし、それは決して容易い道ではなく、心の弱い私は精神を蝕まれ、ついには自分の命を蔑ろにした。
命をかけて、腹を痛めて産んでくれたあなたに、決して言ってはいけない言葉を言ったことがある。
あなたは何も言わず、荒れて赤切れた指を動かして、私の好きな料理を作った。
「食べなさい」
あなたがそう言ったあと、躊躇しながら一口、また一口と食べてみる。そのうち涙や鼻汁でぐちゃぐちゃになった顔を見て、あなたは花びらが広がるように笑った。これまで悩んでいたことが馬鹿みたいに感じた。
あなたには本当にかなわない。
植物や動物を愛でる時の優しい目。嫌な出来事のあとの怒り方。感情が豊かでいつも周りに人がいるあなたが羨ましい。
小さく、可愛らしく、懸命に咲く花を見る度、あなたを思い出す。
花のようなあなた。
お母さん。
私はいつまで経っても心が弱いままなのかもしれない。それを個性と言ってくれたことで、私はどれだけ救われただろうか。
あなたはいつも私が欲している言葉をくれる最愛の人。
どうか別れの時がくるまで、私の傍で咲いていてほしい。
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