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手紙
「…母さん」
彼は、母の前で、呆然と呟いた。
深い眠りについた母。
もう、そこから動けなくなっていた母。
手のひらの跡から、昨夜の縋り付くような必死な足掻きが感じられた。
母の側では、テレビの液晶が、黒い背景にただただ直線を映し出している。
調整された明るめのライトが、病院に不似合いだ。
ベッドにある机には、所在無さげにランプが点滅する母愛用のスマートフォンと、白い封筒が置いてあった。
消えかけた母の残り香を求めてか、彼は封筒を開けた。
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