悪役令嬢は二重人格

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「雪華のやり方が極端なのよ!ライバルの鞄を切り裂くとか、今時少女漫画でもやらないわよ。他の生徒や先生の部屋に忍び込むのも、普通に犯罪だから!あと、瑞樹様の目の前で春花を笑いものにしたって、雪華の好感度がますます下がるだけだからね!?」  鏡を間に挟んで大ゲンカである。  それを傍目に見て、クエックエッと爆笑しているアヒルが一羽。どうでも良いけどチョコボールを繰り出してきそうな笑い方である。 「だからって、その後で春花に「貴方があまりにおどおどしているから、発破をかけようとしたのよ」なんてわざとらしい言い訳をして、慰める必要ある?彼女から「雪華さんのこと恐いと思っていたんだけど、本当は優しい人だったんですね。私も雪華さんを見習って、もっと積極的になろうと思います」なんて言われた日には、怖気が走ったわ。敵に塩を送ってる場合じゃないのよ」  その件についてはごもっとも。自分でも構い過ぎたかな、と反省している。  だが、私にだって言い分はある。  どうも雪華は「婚約者・瑞樹様に好かれる」と「ライバル・春花を打ち負かす」という二つにおいて、圧倒的に後者に行動の比重を置きがちなのである。私は自分が読んだ『恋は春の庭の片隅に咲く』の内容を伝えて、「このまま好き勝手振る舞えばバッドエンドよ」と言って聞かせているのだが、「何をやってもバレなきゃ良いのよ」と全く堪えた様子がない。  うーん、恐るべきポジティブさ。そうなるとネガティブな私は、少しでもバッドエンドを回避するべく、彼女の悪行をその都度是正していくしかないわけである。 「そもそも、そう言うあなたは私の邪魔をするばかりで何もしていないじゃないっ」  鏡面に人差し指を突きつけられ、ぐっと詰まる。確かに彼女の言うとおり、私は現状何もできていない。  正直なところ、雪華の行動はわからないでもないのだ。  瑞樹様の家は雪華の家より爵位も高く、由緒ある家柄だ。広大な領土を持ち、彼の父は王からの覚えもめでたい。雪華とその父にとってはこの婚約はまたとない幸運であった。  だがそこに春花が現れた。婚約者である彼女を差し置いて、目の前でどんどん親しくなっていく二人。  万が一、婚約破棄などされたら。貴族社会で哀れまれ蔑まれ、新たな婚約などもそう簡単にできはしまい。そして結婚できなければ、兄弟に頼ってぎりぎり貴族としての生活をしていくことになる。
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