悪役令嬢は二重人格

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 十九世紀あたりのヨーロッパをモデルにしたと思われる、鵠王国(こうおうこく)。そこに天河学園(てんががくえん)という、大河の小島に建てられた白亜の城のような美しい学園がある。この国の貴族や裕福な商家の子息令嬢が勉学に励む、全寮制の学園だ。……ああ、ここまでで既にありがちである。  そんな学園に入学してきたのが、ヒロインの春花(はるか)ちゃんである。彼女は貧乏貴族の娘で、学費を払うのもやっとという家柄。お下がりの制服、粗末な持ち物で、周りのお金持ちな生徒達から嘲笑されることになる。いや、これもありがちですね。  おとなしい彼女は周囲からの虐めを恐れ、学園内で息を潜めるようにして過ごしていた。そんなときに学園一の美形で、家柄も良い貴族の長男、瑞樹(みずき)と出会う。庭の片隅にひっそりと咲く野花のような、小さくとも可憐な彼女を、彼は見初めるわけである。うう、ありがち。  だが瑞樹には既に家同士によって決められた婚約者がいた。それが悪役令嬢、雪華である。彼女はあの手この手で春花を虐めて、瑞樹から離れるように仕向けるのだ。ええ、ありがちなパターンです。  そして目が覚めたら、そんな悪役令嬢になっていたのが、この私である。  物語に沿うならば、春花への嫌がらせが行き過ぎて遂には彼女を殺そうとしてしまう。それを瑞樹に見咎められて婚約は破棄、家からは勘当、路頭に迷うことになるのだ。  ヒロインの恋を応援する読者としてはスッキリするが、いざ本人になってみると絶対に避けたい展開。この破滅エンドから逃れるために何とかしなければ!おお、怒濤のありがちオンパレード。  さて、ここで問題が一つ。私は完全に悪役令嬢になったわけじゃない。  日中はこれまでの雪華そのものである。それが日が沈むと同時に、私の人格に入れ替わる。はい、ここ重要なのでテストに出ますよ。つまり昼は彼女、夜は私という二重人格。半分だけ悪役令嬢になってしまったのだ。ふぅ、やっとありがちじゃなくなったな。   「クエッ、クエッ、クエッ。実に面白いことになったねぇ」  そう言って笑ったのは、例の鏡の額縁に彫られた鳥だ。  犯人は現場に戻る。自分が陥った状況を理解してから雪華が訪れたのは、当然ながら彼女がおまじないをやった東塔の最上階だった。そこで彼女を出迎えたのが、この笑い転げる鳥であった。
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